青嵐吹くときに君は微笑む 23

「何それ、聞いてないんですけど」
 滴が隣で拗ねた声を出す。
「だって、最近気付いたんだもん」
「うーわ、お兄ちゃん鈍感。そりゃ私が振られるわけだわ」
「えっ、まさか兄妹で三角関係?」と母が急に笑い出した。
「あんたたち最近仲がいいとは思ってたけど、とんでもないことしていたのね」
 あーおかしい。と母のツボに入ったようでしばらく笑っていた。人の恋路を笑うとは如何に。
 記憶の小波の向こうで華麗に舞う渚先輩の姿は絶対に忘れたりしない。あれが俺と渚先輩との恋の始まり。
「そうね、本当に好きだというのなら、いいわ。私だって大人ですもの。同性愛者がこの世にいくらかはいるって知っているわ。まさか息子がそうだとは思わなかったけれど。信じられない気持ちがまだ大きいけれど、私は受け入れることにしたわ」
 ごめんね、零。と母は俺を抱きしめた。太陽のような、この世で一番落ち着く香りに俺はみっともなく泣いたのだった。
「いい? この世に別れない恋愛なんてないの。結婚したって離婚するか死別するかしていつか必ず別れてしまう。それでも、その別れる最後の瞬間まで酒本くんのことを大切にしてあげなさい」
 じゃないと、母さん、また叱らなきゃいけなくなるわ。
 目尻に涙をためて笑った母のもとに生まれたことを、俺は心から感謝した。

「お邪魔します」
 翌週、渚先輩をもう一度家に招いた。
 母は立ち上がると、先輩の手を握った。
「先日は酷いことを言ってしまってごめんなさいね。少し驚いてしまって……でも、こんなバカ息子でよければ、これからも仲良くしてやって頂戴」
 これからは私のことを母親だと思ってくれていいから、と母は付け加えた。
「ありがとうございます、お母さん、お父さん」
 渚先輩は深々と頭を下げると、俺が一番見たかった、美しい笑顔を見せてくれた。
 俺は渚先輩を抱きしめる。小さくて、脆くて、それでも溢れんばかりの華やかさ。そんな君を笑わせるためだったらなんだってするよ。
「ちょっと、零」
 父さんに呼ばれる。
「お前、男同士でもちゃんとコンドームするんだぞ」
「父さんっ!」
 大人の知識量が怖い。
「何々?」
「せ、先輩には後でお話します」
「ふふ、変なの」
 そうだ、今日はニンジンのグラッセ作ってきたんです。
 まあ、渚くんお料理上手ね。また一緒に作りましょう。
 そんな先輩と母との背中を見て、俺はお腹の真ん中から温まるような、幸せをたくさんかき集めて飲み込んだような気持ちになる。
「先輩のグラッセ食べたいです」
「私もー」
「じゃあ父さんもいただこうかな」
 先輩の笑顔が花開くとき、俺の中で五月の風が吹いた。
 記憶の海の中に落とされた一滴の幸せは、これからも俺の人生を、そして二人の人生を彩っていくだろう。

青嵐吹くときに君は微笑む(完)



お読み頂きありがとうございます。
改めまして、佐倉愛斗です。ここまで半年。なんとか完結までこぎつけました!
人生で二度目の長編完結です。嬉しいような寂しいような。
最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました!
冊子版には本編エピローグ・後日談などいろいろ詰め込んでお届けする予定です。
楽しみにしていてくださると本当に嬉しいです。
本当にありがとうございました!

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2017/03/28 (火)

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