vanilla 06

「初日から夜這いとは嬉しいんだけど、どうしたのかい? シャル君」
「今から僕がここでオナニーしてあげるよ。見たいんでしょう?」
 シャルはゆったりと舐めるような口調で話す。シャルの瞳の中に暗い炎が宿っているようで、引田はごくりと喉を鳴らした。
「引田さんは絶対に触っちゃダメだよ。お客は演者に触れないのが決まりさ」
 シャルはシャツをはらりと脱ぎ捨てると、ベッドの上に膝立ちになり、脚を開いた。露になったシャルの素肌は薄暗い室内でも分かるくらいきめ細やかで美しく、白い磁器を思わせる。シャルはほっそりとした指を口に咥えると、引田を見下ろし、嘲笑う目をした。自分以外すべてが不要で害悪かのように語るその目を引田はじっと見つめた。
 唾液でぬらぬら光る指を後ろから秘孔にそっと押し当てる。固く閉じた蕾を開くように人差し指でゆっくりと撫で広げてゆくと、芯を持った中心が揺れて蜜を零した。
 シャルは眉間に皺を寄せて熱を持った息を吐いた。その吐息を肌に感じる距離でゆっくりと粘度をもった動きを引田はただただ見つめる。甘い、甘い香りがする。シャルの肌を舐めてしまいたい。肌だけじゃなく唇も、口腔も、腫れ上がったペニスも、シャルが広げているアヌスも、全てを味わいたい。引田は獲物を前にした自己の野性に流されようとしていた。
「ふぅ……っ」
 シャルの細い指が本来挿入すべき場所ではない器官に侵入する。敏感な粘膜を撫でる快楽にシャルは息を乱し、口の端から銀の糸を落とした。ゆっくりと挿入し、一気に指を引き抜く。本能的な排泄の快感に淫靡なものが混ざり、真っ白だったシャルの頬が薄紅色に高揚する。
「ねぇ、引田さん。こんなえっちな子を買うなんて、ホント変態なんだね」
 シャルは引田の耳元で囁く。熱を持った言葉が耳から脳髄へいやらしいもので染め上げる。
「見ててね、僕のえっちなところ」
 シャルは挿入した指でいいところをぐりぐりと刺激する。肌を走る電気に肌を粟立たせ、膝立ちの脚をがくがくと震わせた。とめどなく言葉にならない声を上げて快楽に身もだえする。上気した顔が、下がる眉が、解けるように閉じられた目が、閉じられない小さな口が、すべてが美しく、耐え切れず引田はシャルを抱き寄せて厚い舌を開いた口にねじ込んだ。
「っ……!?」
 刹那、シャルは立ち上がっていない中心からどろりと白濁した液を流した。絶頂を向かえた身体は小刻みに震え、息が規則的に止まる。
 シャルは涙を流して引田の頬を平手で叩いた。
「触らないでって言ったよね」
 シャルは屈辱に泣いていた。否、恐怖に震えていた。愛されるということは終わりがあるということ。どんなに愛の言葉を囁かれても飽きたら売買される。一緒に生クリームと煮ても、バニラが無味だと気付かれたら取り除かれて捨てられる。モノとして扱われた方がマシだった。もし愛されたら……離れることが惜しくなる。
「引田さん。僕に惚れたなんて言わないで。僕は愛なんて要らない」
「それは約束できないな」
 引田はシャルの頭を撫でると。ベッドサイドのティッシュをよこした。
「引田さん、一緒に寝てあげるよ。こんなにベッドが広いんだから」
 シーツの汚れを拭ったシャルは有無を言わさず引田の横に滑り込んだ。
「抱きしめちゃダメだからね。一緒に寝るだけ。じゃあ僕疲れたからおやすみ」
 引田の少し速い鼓動を背中に聞きながら、シャルは眠りについた。



お読み頂きありがとうございます。
久々の塗れ場を書いていて楽しかったです。
よろしければ拍手をお願いします。

ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ



←前のページ 目次 次のページ→
web拍手 by FC2
2015/12/29 (火)
vanilla

最後のメリークリスマス

 とさり、とさり。
 真っ白な一面の雪に赤い、赤い血が落ちる。
「本当に死んでもいいのね?」
 口を赤い体液で汚した少女が問う。
「気持ちは変わらないよ、リヴ。僕の天使」
 少女に抱きかかえられたやせ細った少年は腕を彼女の首に回す。それは食いちぎられた首筋から肩を伝い彼女の白いワンピースを赤く染める。ぼたりと落ちた雫が白い雪を淡く溶かした。
「ねぇリヴ、僕の命は美味しいだろうか」
 少年は尋ねた。
 雪を解かす血だまりの真ん中で、少女と少年は抱き合った。

 最後のメリークリスマス。

 雪が降り始めた。この光景を病室の窓からあと何年眺められるだろう。
 雪深い山中にあるホスピス。マザーテレサが言うには死を待つ人の家。僕らに残された時間は他人と比べたらとても短い。昨日は隣の部屋のおばさんが、今朝は同室のおじいさんが亡くなった。
 他の患者に比べたら僕はずっと若い。まだ十代の半ば。「まだ若いのにお気の毒に」と言われることには慣れてしまった。僕を蝕む病魔は誰が決めたのか、僕のもとへやってきた。長い治療の末、もう助からないだろうとこの施設へやってきたのは二年前のことだった。
 折角雪が降ったのだから外に出てみよう。僕は綿のパジャマの上から重たいモッズコートを被って病室を抜け出した。
 ホスピスの裏山の広場を目指す。しばらく歩いたものだから心臓が急いて胃の中がひっくりかえりそうだ。冷たい六花の妖精たちがひらひらと、真っ白な空からダンスをしながら降りてくる。くるくると舞い降りて、まだ冷え切っていない草木に触れて、やがて妖精たちの命は潰えた。
 僕は広場の前で立ちつくした。見慣れない白い髪の少女が広場のベンチに腰掛けていたのだ。膝の出る半ズボンに白いセーター。足元は裸足だった。
「ねぇ、君、寒くないの?」
 僕が話しかけると少女はハッと顔を上げた。グレーの光彩の瞳がキッと僕を睨み付ける。血管まではっきり見えるような色素の薄い肌に白いウエーブのかかった髪。しっかりと通った鼻筋。欧米系の顔立ちに僕は戸惑う。
「日本語、分からなかった?」
「分かる」
 少女はそれだけ答えた。
「よかった。君も施設の子?」
「ううん。違う」
「何故ここに居るの?」
「人が死ぬのを待っているの」
「そっか。ここじゃ毎日誰かが死ぬ。待ってどうするの?」
「食べるの」
 少女の言葉に僕は戸惑う。カニバリズムというやつだろうか。
 丁度、少女のお腹がくうぅと鳴る。空腹なのは本当らしい。
「お腹空いているなら、みかんならあるけど食べる?」
 少女の隣に腰掛けて、ポケットの中のみかんを差し出す。
「要らない。食べられないから」
「そっか、みかんは嫌い?」
「ううん、人間しか食べられないの」
「君、変わっているね」
「吸血鬼なのよ」
「へー、そうなんだ」
「驚かないのね」
「もう僕は何があっても驚かないよ。僕ももうすぐ死ぬから。死神が見えたって可笑しくない。早く死にたいよ」
 少女が目を見開く。
「ダメ。そんなに簡単に死にたいだなんて言ったら」
 グレーの瞳が僕の顔を覗き込む。初対面にも関わらず説教だなんて図々しい人だ。
「もう何年も余命宣告をされてきたんだ。あと半年。それを過ぎればあとまた三ヶ月。今は年を越せるか分からないと言われている。ずっと僕の『死』は先延ばしになる。早くほしいんだ。心休まる『死』の果実が。一度しか味わえない至福の時が」
 少女は黙って僕の手を握った。少女の手は驚くほどに冷たかった。
「そうだ、君、吸血鬼なんだよね。僕の血を飲んでよ。そしたら君はお腹いっぱいになるし、僕は安らかに死ねる」
 僕の提案に少女は顔を歪ませた。
「私は人を殺さない。そう誓ったの」
「吸血鬼なのに? 変わっているね」
「吸血鬼の存在を信じるあなたの方が変わっているわ」
「嘘だとしても、僕は君のことを信じるよ」
「変わった人ね」
 僕と彼女は顔を見合わせて笑った。
「僕はユタカ。君は?」
「私はリヴ」
 この出会いは僕の人生の中でもっとも尊いものだった。

 それから僕たちはホスピス裏の広場で会うようになった。雪がうっすら積もるようになってもリヴは薄着の裸足で、それでも寒くないという。リヴはノルウェーの出身で百年ほど前に日本へ来たそうだ。
「リヴって何歳なの?」
「四百歳くらいよ。まだ吸血鬼にしては若い方なの」
「すごいなぁ。僕は十六歳。リヴが十六歳の時は何をしていたの?」
 リヴはブロンドの髪をくるくる指に巻き付けながら、覚えていないわ、と答えた。
「よく覚えているのは、太平洋戦争のときの日本ね。焼けた人間はあまり美味しくないわ」
「お刺身の方が好き?」
 お魚じゃないのだから、とリヴは笑い、続けた。
「なるべく新鮮な方が美味しいわね。痩せこけた老人も、脂まみれの中年もイマイチ。筋肉質な若い人がやっぱり美味しいわ」
「じゃあ僕はきっと美味しいよ。まだこんなに若いんだもん。でも、薬の味で不味いかな」
「ここで死ぬ人はみんな薬の味がするけれど、大きな病院みたいなところの遺体はモルヒネの味がして最悪よ。自殺者も多くは向精神薬の味がするわ」
 そっかー、と僕は笑った。
「でも食べる側は我儘言ってはいけないの。命をいただいているのだから」
「リヴは人格者だね」
 僕が言うとリヴは顔を赤くして背けた。
「ねぇリヴ、やっぱりお願いを聞いて。僕を食べてほしい」
「いやよ、ユタカ。私は人を殺さない」
「僕はもうすぐ死ぬ。それがほんの少し早くなるだけ。新鮮なお刺身が食べられるよ?」
「茶化してもダメよ。私は友達を食べたくない」
「僕たちって友達だったんだ。じゃあ、友達をやめよう」
 リヴの瞳が悲しみに揺らいだ。
「リヴ、僕の恋人になって。そして僕の願いを叶えてよ」
 僕はリヴの柔らかくて冷たい身体を抱きしめる。
「分かったわ。クリスマスがくるまで恋人でいましょう。そしてクリスマスまでにユタカの気持ちが変わらなければユタカのことを食べるわ」
 僕の初めてのキスはほんの少し鉄と生臭い味がした。

 葉を落として寂しかった山並みが、白粉を被りいじらしく光り輝いている。
 僕はあれから自力で立って歩くことができなくなっていた。
 消えることのない吐き気に何度も嘔吐し、リヴが食べられないと言ったみかんの香りで胸のむかつきを逃すので精いっぱいだった。いよいよ本当に死ぬのだと思うと不思議と頬が緩む。「約束された死」それが僕にとっての心の安寧だった。
 窓から白く輝く山並みを眺める。リヴの肌も髪も雪のように白かった。会いたい。リヴに会いたい。病気で死ぬのが先か、リヴに食べられるのが先か。できるのならば僕はリヴに食べられたかった。死を望むがゆえに、皮肉にも僕は生きることを望んでいた。

 夜更け、遠くのリヴの声で目が覚めた。夢か幻聴かは分からないけれど、リヴの声がした。
「リヴなの?」
「ユタカ、目を閉じて」
「なんで?」
「いいから、目を閉じて」
 僕は目を閉じて、閉じたよ、と伝える。
「入っていいって言って」
「なんで?」
「いいから、入っていいって言って」
「入っていいよ」
「ユタカ、会いに来たよ」
 その声は耳元でした。目を開けると、そこには薄いシャツ一枚のリヴの姿があった。
「リヴ、ここ三階だよ。すごいね」
「吸血鬼だからね」
 リヴは冷えて赤くなった鼻の頭を掻いた。
「リヴ、殺しに来てくれたの?」
 リヴは黙って僕のベッドにのぼる。鼻と鼻が触れ合う距離でリヴの吐息を感じた。
「ユタカ、死ぬよりもっと気持ちいいことしよう」
 はらり、とリヴの肩からシャツが流れ落ちる。月明かりに照らされた白磁の肌に僕は息をのんだ。ゆるやかな胸部の膨らみに、細い腰。月の天使のような彼女を僕は抱き寄せた。
「リヴって冷たいね。氷の女王みたい」
「じゃあユタカの熱を頂戴」
 リヴは僕の唇を啄む。優しく、優しく柔らかな唇を堪能する。僕が我慢できなくて舌を伸ばすとリヴはそれを受け入れ、軽く吸い上げた。舌の付け根を舌先で舐られるとだらしない声が漏れて、リヴはにやりと僕の目を見て雌豹のように笑った。色素の薄い光彩が月明かりに照らされて、僕は天使とセックスをしている気分になった。
「ユタカ、もうすぐ死ぬっていう割に元気ね」
 ズボンを押し上げて主張する陰部をイヴは撫でる。
「ユタカは動かなくていいよ。身体に障るから」
 リヴは僕のズボンを脱がせると僕のモノを肉壁で包み込む。あったかくて、濡れていて、この世の幸せを全てかき集めたような感覚に陥る。
 リヴは眉間に皺を寄せて内腔を押し広げられる苦しさを、息を短く吐いて逃していた。なんて愛しいのだろう。繋がった今、僕らは何故か涙を流していた。
 そしてセックスの最中にリヴは言った。
「人はエクスタシーを感じる度に一度死ぬ」のだと。

「リヴってサキュバスなの?」
「ううん、ただのバンパイア、吸血鬼よ」
 狭い病院のベッドの中で抱き合って語り合う。真冬の汗はすぐ僕らを現実へと誘う。
「こんなことした後にいうのもなんだけどさ、子供できちゃったりしないの?」
「しないよ。吸血鬼とは吸血鬼との間でしか子供ができないの」
「それはよかった。リヴ一人じゃあ育てるのは大変だ」
「悲しいこというのね。私はユタカとの子が欲しかった」
 リヴの大粒の涙が僕の胸に落ちる。リヴの涙は彼女の身体のどこよりも熱かった。

 約束の日。よく晴れた白銀の夜。広場のガス灯が真っ白な世界を静かに輝かせる。
 リヴに抱きかかえられた僕は広場の真ん中にたどり着く。
「ユタカ、ユタカの気持ちは変わらない?」
「変わらないよ、リヴ。君のことを愛していたよ」
 僕は乾いた唇をリヴに寄せた。リヴの虹のようなグレーの光彩が揺らぐ。
「これからは? これからも私のこと愛してくれるよね?」
「リヴ……僕にこれからはないんだ。僕の命はもうすぐ終わる。そして選べるのならば、僕はリヴに食べられたい」
「いやよ、こんなにやせ細って」
 喉の奥が熱くなった声でリヴが言う。
「ふふ、ごめんね、美味しくなくなっちゃったかな?」
「そんな冗談言わないでよ」
「リヴには笑っていて欲しかったな」
 僕はもう一度だけ唇を重ねた。
「本当に、いいのね?」
「うん。僕を食べて、リヴ」
 リヴの冷たい舌が僕の首をなぞる。彼女の尖った歯がおそるおそる肌に触れる。もう終わるのだと思うと嬉しくてたまらないはずだった。でもやっぱり寂しくなるのだと、このとき僕は初めて知った。
 とさり。
 食いちぎられた皮膚から赤い飛沫があがる。心臓が波打つたびに血がどくりどくりと漏れる。リヴは口を真っ赤に汚してそれを飲んだ。
「ねぇリヴ、僕の命は美味しいだろうか」
「ユタカ、美味しいよ。美味しいよ」
 命の熱を持った血液が辺りの雪を解かす。白銀の世界に赤い花畑ができたように赤い雪が花開く。
「リヴ、ありがとう。君の一部になってこれからも君といるよ。僕の天使よ」
 これが僕の、最後の物語。



お読み頂きありがとうございます。
クリスマスの短編を書こうとして、どうしてこうなったという内容になりました。雪の降る夜の静かなホラーがマイブームです。
誰も幸せにならないお話でしたが、そんなクリスマスもアリですか?
よいクリスマスをお過ごしください。

ランキング参加中です
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ
web拍手 by FC2
2015/12/25 (金)
短編集

vanilla 05

 廊下を行けども行けどもこの家は広すぎた。どこを曲がったら外に出られるのだろうか。逃げることは商品として許されることではないだろう。それでもシャルは引田から逃げたかった。引田のことが怖くて仕方がなかった。どんな酷い目にあうことも命を奪われることもシャルは怖くはなかった。この嫌悪感が何なのかシャル自身はまだ分からずにいた。
 ようやく見つけた階段を下りきったところでシャルは胃の中のものを全て吐き出しうずくまってしまった。素足にかかる吐瀉物が生温く、喉がひりひりと酸で焼ける痛みに涙を落とした。
 帰りたい。
 シャルの願いは酷く儚いものだった。誰のところに帰ればいいのか彼自身にも分からない。追いかけてきた引田の声を遠くに感じながら、シャルは目を閉じる。この世界に彼の帰る場所はなかった。

 使用人の萩野の案内でシャルはシャワーを浴び、清潔すぎるほど白いシャツを一枚だけ身に付けてベランダで街並みに沈む夕日を眺めていた。引田の邸宅は市街地から少し離れた高台にあり、かつてシャルがいた繁華街を遠くに見下ろすことができる。あんな小さな世界に囚われていたのだとシャルは知った。毎晩ショーをして、セックスをして。それだけの毎日だった。
「落ち着いたかい?」
 背後から話しかけられ、シャルは身を固くする。引田はシャルと少し間をあけて並んで黄昏を眺めた。
「いい眺めだ。隣に君が居てくれるからね」
「なんで、そんなこと言うの」
「なんで、って君のことが好きだからだよ」
 夕日が沈み、紫の空にピンクの綿みたいな雲が浮かぶ。太陽に輝きを奪われていた星たちが静かに瞬き始める。それを美しいとシャルは思えなかった。
 無言で空を眺めていると、引田は頬を緩ませて笑った。なんでこの人はこんなにも幸せそうに笑うのだろう。
「夕食は食べられそうかい? 萩野に頼んで今夜は中華粥だ」
 引田はシャルの艶のある髪を撫でると、室内へ戻って行った。
 繁華街から眺めるよりずっと暗い空を眺めて、シャルは訳も分からないまま一筋の涙を流した。

 夕食後、今日からここが君の部屋だ、と案内された先は一階の一番奥の部屋だった。北原のアパートの倍くらいはありそうな部屋の中には大きなベッドと、机と椅子のセット。テレビにソファーもあった。部屋の中にはもう二つドアがあり、一つは引田からのプレゼントの箱が積まれた衣裳部屋、もう一つはトイレがついたバスルームだった。着の身着のままでこの家にやってきたシャルにとってはあまりにも広すぎる部屋だ。シャルは戸惑いのままにお礼の言葉を口にした。
「廊下に出て向かいが私の書斎。その隣が寝室だ」
「広すぎて迷子になるよ」
 ぼそりと呟くと、また引田は微笑んだ。
 それじゃあお休み、と引田は部屋を出ていった。取り残された孤独に、シャルは立ちつくしていた。

 夜更け、引田は廊下から射す灯かりに目が覚めた。ドアを閉めたはず、と身体を起こすと、ドアの前に華奢な身体の少年がいる。
「引田さん。見たいんでしょ? 引田さんのためのショー」
 少年はシャツのボタンを外してこちらに歩いてくる。
 ベッドにあがった少年からは、甘いバニラの香りがした。



お読み頂きありがとうございます。
シャルの心理を考えながら書いていると胸がいっぱいになります。
よろしければ応援の拍手をお願いします。

ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ



←前のページ 目次 次のページ→
web拍手 by FC2
2015/12/22 (火)
vanilla

青嵐吹くときに君は微笑む 小ネタ集 2015/11

2015.11.12

零と渚はふわふわとろとろあまあまのカップルとして書いてるけどシリアスなものはシリアスだし、うーん。如何せん中学の時の作品だから公開してないし作品として未熟なんだよね


2015.11.20

小説を初めてネットに公開したのは中学3年生の冬でした。「青嵐吹くときに君は微笑む」という甘くてゆるーいBL小説です。渚くん可愛いよ。いつか手直ししてこれも本にしたいですね。



ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ


更新通知をLINEで受け取る


←前のページ 目次 次のページ→


web拍手 by FC2
2015/12/21 (月)
青嵐吹くときに君は微笑む

140字SS 061~065

061 愛殺

手に入らない人なんて殺してしまえばいいじゃない。
あたしを愛さない人をどうして愛さなきゃいけないの?
あたしのモノになりなさい。




062 おわりのおわり

胸に刺さった棘が痛い
抜いて抜いてと喚くけれど、抜いたら私の心臓は破けてしまう
それでもいいの、苦しみが終わるのならば




063 口寄せ

あなたの柔らかな唇を啄みたい。厚い下唇を吸って官能の扉にノックをするの。
充血したあなたの唇を見てわたしはクスリと雌の眼をして笑いたい。
もう一度唇を合わせるとあなたは熱い舌でわたしの唇を割ろうとするけれど、あなたは我慢の足りない子ね。
いけない子、と額を合わせてあなたを見詰めるわ。




064 冷たい医学

透明な液がぽたりぽたりと拍動のように落ちて僕の細い血管に薬物を流し入れる。
冷たい液が血管を廻り指先が心地よい涼しさに脱力する。
この冷たい僕の手は果たして死人のものではなかろうか。
冷たい医学に生かされる僕は死人ではなかろうか。




065 かなし

愛しさは悲しさを孕んでいるよ
だってほら、貴方を想うだけで涙が出るのだから
身を知る雨に打たれて私は今日も微笑むよ







ランキング参加中です
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ


更新通知をLINEで受け取る
web拍手 by FC2
2015/12/18 (金)
140字SS

創作ブログリレー「僕の創作とアイドルについて」

はじめましての方も、いつもお越しくださる方もこんばんは、佐倉愛斗です。
創作ブログリレーという企画に参加させていただきました。
創作ブログリレーとは毎日誰かが創作のことについて語る企画です。丁度僕で折り返し地点の7人目です。
はじめましての方に簡単に自己紹介を。
僕はアマチュアで物書きをしている小説家です。当サイトに作品を掲載したり、企画に参加したりとゆったり活動をしています。
主題は性と愛。様々な恋愛やLGBTにまつわるお話を書いています。

さてさて、今回僕がお話するのは、僕の創作とアイドルがどう関わっているかです。
ご存知の方もいらしゃるかもしれませんが、僕はジャニーズの大ファンです。テレビやラジオ、雑誌に舞台にコンサート。様々な媒体で彼らのことを知り、応援することが生きがいです。
それがどう僕の創作に関わっているのか、しばしお話させていただきます。


僕が初めて小説を書いたのは中学3年生の冬でした。
嵐が11周年を迎え国立競技場で4日間28万人を動員し、大いに盛り上がっていた年です。
コンサート会場に向かっていると、チケットを譲ってくださいという看板を持った人がたくさんいました。
それを見た僕は「もしチケットを1枚余らせた人がチケットを渡して仲良くなったらどうなるのだろう」と想像しました。
それが処女作「青嵐吹くときに君は微笑む」の始まりでした。(現在公開はしていません)


数年後、高校生活の忙しさからあまり執筆できないなりに言葉を紡いで遊んでいた頃、嵐の大野智さんの作品集を母が買ってきました。造形や絵画など様々な作品を眺めていると、付属の一枚のポストカードが目に留まりました。

「君の人生の一瞬―ひととき―が僕の作品集で癒せたらとってもうれしい これからも君の人生を奪うでぇ~♡」

ガツン、と頭を鈍器で殴られたような衝撃でした。
それまでは何となく自分の想像を文字にしていただけの作品を作っていました。読んでくれる人がいれば嬉しいな~なんて呑気に考えていたものです。
しかし作品に触れてもらうということは読者の「人生の一瞬」を奪っている。その人生の一瞬を無駄にさせてはいないだろうか。
初めて「読者」というものを強く意識した瞬間でした。


時は流れて高校生活も終わり、自由に創作をする時間が増えました。
このサイトを立ち上げ、様々な創作企画に参加させていただきました。
一方、ジュニア時代から応援していたジャニーズWESTがデビューし1年。彼らの単独コンサートが行われるようになりました。
そのジャニーズWESTがコンサート前に必ず言う言葉。

「盛り上がれるのか? 俺ら次第や!」

エンターテイナーとはどういうものなのか。僕が考えさせられた言葉です。
僕の作品の閲覧数が伸びない。酷評される。見向きもされない。
誰も僕の作品の良さを分かってくれない、なんて自棄になることもきっとあるでしょう。
しかしそれは読者のせいではなく僕の力量次第です。
そんな当たり前のことを思い出させてくれる大切な言葉です。


最後に、ジャニーズのコンサートへ行くと必ず「幸せにしてやるよ」と言われます。
小説家というエンターテイナーとして読者を幸せにできているか、僕はたまに立ち止って考えます。
彼らは僕に大切なことを教えてくれました。

そんなアイドルオタクの創作語りでした。
最後まで読んでくださりありがとうございました。

他の参加者さまのブログはこちらから→創作 Advent Calendar 2015
創作ブログリレー TwiPla
web拍手 by FC2
2015/12/18 (金)
trackback (0) : comment (0) : blog

vanilla 04

 北原の住むアパートから車で十五分ほどの高級住宅街。繁華街の不潔さなんてみじんも感じない空気すら違って思える場所にシャルは居心地の悪さを感じていた。
 敷地内の手入れの行き届いた花壇の前に車をつけると、運転手はドアを開けてシャルを大きな邸宅の中へ案内した。玄関ホールは吹き抜けで、ここだけで今まで暮らしていた北原のアパートの居間ほどの広さがある。高い窓から差し込む昼下がりの光に目が回るようで、夜の薄汚れた世界しか知らないシャルにとっては眩しすぎた。
「主人の引田様がお待ちです。どうぞ二階へ」
 シャルと同じ年頃の運転手の青年が誘導する。シャルは足にひっかけていた安いサンダルを脱ぐと用意されたスリッパを無視して裸足で階段を上がった。
 次の飼い主はどんな人だろうとシャルは考えを巡らせる。こんな広い家に住んでいる社長さんともなれば相当な金持ちだ。シャルのことを買い取れるほど金を積める人だ。そして僕を買い取るなど酷くマニアな変態だろう。性欲を持て余した熟れた女性か、サディズムを向ける相手のいない寂しい人かもしれない。スカトロマニアの小汚い男かもしれない。以前買い取った玩具が壊れたからシャルを買い取ったのかもしれない。今までの生活より酷くたってシャルはどうでもよかった。価値のない僕。唯一の価値はこの美貌。いつ捨てられたっておかしくないのだ。
 二階の最奥のドアを青年が開けると、シャルは目を疑った。忘れもしない、待ち人に出会えた喜びをたたえたその瞳。
「やっと来てくれたね、シャル君」
 大きなダイニングテーブルから立ち上がって出迎えてくれたのは、昨日シャルに話しかけた男だった。今日もスーツ姿で、髪は整髪料でセットされ、清潔で、きっと家具の埃をすぐ気にするような人に思えた。
「私は引田真琴だ。お腹空いているだろ? まずは食事にしよう」
 さあさあと言われるままに席に座ったが、シャルは笑顔で浮かれる引田のことが薄気味悪かった。本当に買い取るなんて大した金持ちだ。これからは彼が自分の所有者になる。清潔そうに見えて真性のマゾなのだろうか。いや、サディストを蹂躙したいサディストかもしれない。
 上着を脱いだ運転手がシャルと引田の前にミートソースのかかったパスタとコーンスープ、ハムの入ったサラダを並べる。花の模様が描かれた食器はいかにも高級そうで、金属製のフォークをショー以外で見るのはこれが初めてだった。
「お腹空いているだろ? 簡単なものですまないがお昼にしよう」
 引田は嬉しそうに微笑むのだが、シャルは喉のあたりが締まって食欲など感じなかった。苦い水が上がってくるが仕方なく無言でフォークをつかみ、パスタを口に含む。コンビニのパスタよりはずっと美味しかったが、嬉しくは無かった。
「口に合わなかったかい?」
 眉をひそめて引田がシャルの顔を覗き込む。引田の瞳に写るシャルは泣いているように見えた。
 なんでもない、とシャルはパスタを口に運ぶ。出されたものは残してはいけないと北原にきつく言われて育ったことを思いだす。北原に育てられるより前のことは覚えていなかった。でもこれだけははっきりと知っている。シャルは北原に売られたのだと。なんどもそう北原に言われて育ってきたのだから間違いはなかった。そして僕を売った誰かのように北原もシャルを売った。紛れもない事実だ。
「君が来てくれて本当に嬉しいよ」
 引田が綺麗にパスタを巻きながらシャルに微笑む。改めて明るいところで引田のことを見ると彼は爽やかで優しい顔立ちをしていた。歳のころは三十くらいだろうか。短い髪を綺麗にセットして、グレーのスーツは皺ひとつなく引田の体にフィットしていた。フォークを持つ手はほっそりとしていて気品がある。引田は続けて話す。
「私には家族が他にいなくてね。家のことはそこの萩野に全て任せている」
 先程の運転手が背筋を伸ばしてお辞儀する。シャルと同じくらいの歳に見える青年で、カラメル色の髪をマッシュヘアにしている。目の下のそばかすが特徴的だとシャルは一瞥した。
「萩野、そろそろデザートにしよう」
 シャルが食べ終わったのを見計らって引田が声をかける。出てきたのは今朝食べたカスタードプリンだった。透明なカップからカラメル、カスタード、生クリームの三層が見える。
「私の会社で作っている商品でね。君がこれを好きだって誠司から聞いていたものだから用意しておいたよ」
 そういえば北原が引田のことを社長さんと言っていたことを思い出した。少し硬めのカスタード生地に滑らかなホイップクリーム。いつもの味だ。滑らかで少し硬いカスタード。ほんのり苦いカラメル。それらを包む優しい生クリーム。北原さんがたまにくれた思い出の味。
「やっと笑ってくれたね。笑う君もやはり綺麗だ」
 引田が目を細めて笑う。無意識に笑っていたことが恥ずかしくてシャルは顔を背けた。
「その、引田さんはなんで僕を買ったの?」
 シャルが思っていたことを口にする。
「なんでって、そうだな。君に一目惚れしたからだよ」
 一目惚れ。その言葉にシャルはスプーンを落とした。こみ上げる吐き気と目の前が真っ暗になるような眩暈。立ち上がるとシャルは部屋を飛び出した。



お読み頂きありがとうございます。
舞台が一転して引田のもとでの新生活が始まろうとしています。区切りの関係で今回はちょっと長めです。
よろしければ拍手をお願いします。

ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ



←前のページ 目次 次のページ→

web拍手 by FC2
2015/12/15 (火)
vanilla

vanilla 小ネタ集 2015/11

2015.11.17

「お前につけられた値段なんて知らない方がいい」

愛実ちゃんの絶望したその顔が可愛いよ!!!!!(盛大なネタバレ)

シャルの本名を出すタイミングに悩んでいる
んー書き進めてからでもいいかなぁ


2015.11.18

絶望した心理をもうちょっと描きたいなぁ……技量が足りない


2015.11.22

Vanilla書いてるんだけど構成ちょっと変えてみるか
キーワードの「カスタードプリン」がうまく活かせてない

朝、起きたら横にお母さんがいなくて、家中探しても見つからなくて、とてつもなく不安で泣いていたらゴミ出しに行っていただけだった。
という小説を書いている(ぇ

この世の終わりみたいな絶望を感じるよね、幼少期に親の姿が見つからないって

Vanillaは今日はここまで
しゃちょーさん嫌われろーへっへっへ(ゲス顔)しながら第2章練るですよ


2015.11.26

シャルって持ち物少なそう
一着しかない私服にボロボロのサンダル、メイク道具と……あと何か持ってるの?
ショーの衣装は置いていくだろうしなぁ


2015.11.27

「甘い香りがしたとしても、味まで甘いとは限らない」という一文にやられた
過去の自分やるじゃん

どろどろに甘やかしてやりたいんじゃ

シャルって学校行ってないよな……てことはおバカキャラ路線で行ける?
いや、学がないだけでおバカではないんだよ
覚えるのは早そう

お手伝いさんにシャルが勉強教わるシーンとか涙出るほど幸せなシーンだな……休憩にプリン食べましょ


2015.11.30

シャルをいいこいいこしたい
いいこいいこしたい子にするべく痛め付けてる感ある
誰ですかこんなにも彼を傷つけたのは!!!僕です!!!!!

「今、ここで契約しろ。一生僕から離れるな」と呪いのように愛を乞う少年よきかな



ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ


更新通知をLINEで受け取る


←前のページ 目次 次のページ→
web拍手 by FC2
2015/12/14 (月)
vanilla

クリエイターズマーケット コメント返信

こんばんは、佐倉です
昨日・今日と開催されているクリエイターズマーケットへ行ってきました
行くのはこれで3度目になります
文芸作品での出展はできないのでいつも一般参加ですが、素敵なクリエイターさんに出会えるのでとても楽しいです

購入品はこちら
CWEpZhkUkAAhuB4.jpg
CWEqey1UEAAZi_l.jpg
CWExIVQVEAAM3iF.jpg

素敵な作品に囲まれて幸せたくさんです

美しい女性のイラストが大好きですね
ブックカバーは創作のメモ帳のカバーにしました
イヤリングも作家っぽくて一目惚れです
そして理系グッズに目がない僕……
レニィレアンさんのポスターをゲットできたうえにたくさんお話させていただけて感無量です

またお目にかかれることを楽しみにしています

クリエイターさまのリンク

sakiyaさま(イラストレーター)
きしもとあやさま(イラストレーター)
裏庭工房しーらんくさま(革細工)
Nacojiさま(ハンドメイドアクセサリー)
ものりさま(理系雑貨)
レニィレアンさま(イラストレーター)


コメント返信

11/14 吉川蒼さま

返信が遅くなってしまいすみません。
不安定な体調と付き合いながらゆっくりとやれることからやっていきますね。
いつも気にかけてくださってありがとうございます。
吉川さまのコメントにいつも元気をもらっています。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

12/08 火南さま

初めてのコメントありがとうございます。
これからどんな展開が待ち受けているのか楽しみにしてくださると幸いです。
vanillaは毎週火曜21時更新ですのでよろしくおねがいいたします。
更新通知はこちらから登録できますのでご活用ください。

12/12 野津征亨さま

野津さまこんばんは。いつもお越しくださりありがとうございます。
僕の中に居る人々のつぶやきを描いてみました。
野津さまのオリジナル作品を密かに楽しみにしております。
web拍手 by FC2
2015/12/13 (日)
trackback (0) : comment (0) : blog

140字SS 056~060

056 髪、縛る

「わたし、貴女の長い髪が好きよ。艶やかで、絹のようになめらかで、触れると少しひんやりとしているの。櫛でとくこの時間が贅沢なひとときなの」
 ああ、僕はまたあなたの言葉に縛られる。




057 atrium

冬がこんなに寒いだなんて知らなかった
もうこんなに寒くなったのか、と君に連れ出されてやっと季節を知る
外の世界は鮮やかで輝いて空気が芳しくて
もう少しだけでも君と外の世界を歩いていたいよ




058 清潔

透き通った清潔なミネラルウオーターも乾くと汚れを残していく




059 渇き

僕の心には穴が空いているのだろうか。
幸せなものをたくさんもらってもすぐに飢えに喘ぐ。
満たされない心を癒すのは誰。




060 君に注ぐ

僕は何も無くしてはいない
否、幼き頃にたくさんのものを無くしたのだろう
歪なグラスの僕にワインを注げど流れ落ちる
ああ、誰か僕に「 」を注いではくれないか







ランキング参加中です
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ


更新通知をLINEで受け取る
web拍手 by FC2
2015/12/11 (金)
140字SS

vanilla 03

 朝、隣に誰もいない孤独で目が覚めた。
 あたりを見回しても雑多なアパートの一室に北原の姿はない。シャルが持っている唯一の私服である青いスウェット生地のパーカーに袖を通して狭いキッチンの先の玄関を確認すると北原の靴も無かった。ゴム口がよれたパーカーの裾を引っ張って、玄関に膝を抱えてシャルは座った。
 どれだけの時が経っただろうか。板張りの床がシャルの薄い尻を冷たくさせ、シャルが不安に震え怯えるのには十分な時間だった。玄関が開く音に顔を上げると帰ってきた北原は珍しくスーツ姿で、長い髪を低い位置で一つに束ねていた。
「シャル、起きてたのか」
 北原の手がシャルの頬に触れる。人肌の温もりが凍り付いたシャルの口の端を溶かしていった。
「詫びと言ってはなんだけど、これもらったからやるよ」
 小さな紙袋の中を覗いて紙箱に印刷された見覚えのあるロゴに、シャルはぱあっと顔を輝かせる。
「お前、これ好きだろ?」
 シャルはコクコクと頷き、北原をせかすようにワンルームの座卓まで駆ける。
 贈答用の紙箱の中には透明なカップのカスタードプリンがふたつ並んで入っていた。下には飴色のカラメル、バニラの粒が混ざった固めカスタードの上には真っ白な生クリーム。口の中で混ざり合うと苦さと優しさが調和して夢を見ているように幸せな気持ちになった。気まぐれで北原が持ってくるこのプリンのことがシャルは大好きだった。
「じゃあ俺、シャワー浴びてくるわ。整髪料付けてるとハゲそう」
「いってらっしゃい」とまた一口プリンを口に含んで北原をユニットバスへ見送った。

「シャル、ちょっとこっちこい」
 風呂からあがった北原はベッドに腰掛けると、シャルを隣に座らせた。
「何、改まって」とシャルは笑う。だが彼の心中は不安と怯えしかなかった。最悪の事態を予測して、そんなことなかったと安心させようと必死だった。しかしその淡い希望すら簡単に裏切られる。
「シャル、お前は今日からここを出ていくことになった」
「えっ、何で、何故なの北原さん」
 北原の胸に掴みかかって叫ぶ。
「お前を買い取りたいという人が今日やってきてな。お前を売ることにした」
 言葉が出なかった。今まで必要とされてここにいたのに、こうもあっさり終わりが来る。北原にとってシャルと呼ばれる少年は恋人でもなんでもなく、ただの商売と性処理の道具でしかなかったのだ。「シャル」は所詮道具。人としての存在価値はなく、売り買いされる「物」なのだ。そうシャルは思わざるを得なかった。
「いくら……いくらで僕を売ったの」
 求めていた以上の屈辱に震える声で問う。
「知らない方がいいんじゃないの? 自分に付けられた価値なんて」
 シャルは襟を掴んでいた手を離した。
「もうすぐ迎えが来るから荷造りしろ」
 冷淡な声にシャルは静かに笑った。また売られたのだ。金目当てで僕を。ひどく惨めで興奮した。ショーを見に来る汚いゴミのような大人よりも価値のない僕。次の飼い主もセックスが上手だろうか。
「どんな人なの?」
 シャルが訊ねると北原は一言「社長さんだ」と答えた。
 金持ちが人を買うことはよくあることだ。気に入った風俗嬢に金を渡して家に住まわせる、いわゆる「水揚げ」というものはシャルも聞いたことがあったし、シャルを買い取りたいという申し出は何度もあったと北原は言っていた。しかし今まで北原はどんなに金を積まれてもシャルのことを手放そうとはしなかった。どうして今なのだろう。
「僕はもういらない子なんだね」
 何度も繰り返した言葉を思い出したようにシャルは呟いた。
 まとめるほどの荷物なんてなく、あっけなくそのときは来た。
「シャル、迎えが来たぞ」
 北原がシャルの髪に触れる。黒くて柔らかなそれを確かめるように指に絡ませて耳、頬へと手を撫で下ろす。
 シャルは北原の手を振り払って立ち上がった。もう用済みになるのだから気にも留めなかった。シャルにとって自分を必要としない人間なんて必要ではなかった。身寄りのない自分を住まわせてくれた恩はあったが、北原は僕のことを売ったのだ。
「もう必要じゃないんでしょ?」
「ああ、もう帰ってくるなよ」
 その言葉を最後に、シャルはアパートの前に停められた黒塗りの車に乗り込んだ。バニラとムスクの香りがする。
「さようなら、北原さん」
 どんな生活が待っていようとシャルにいかなる選択肢も無かった。不安に思うことも逃げ出すことも知らなかった。何故なら彼は売買される「物」だから。そう、シャルが信じているからだ。



お読み頂きありがとうございます。
シャルのことを思うと悲しみと慈しみで胸がいっぱいになる作者です。
よろしければ拍手をお願いします。

ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ



←前のページ 目次 次のページ→

web拍手 by FC2
2015/12/08 (火)
vanilla

蒼血のアフェクシオン 小ネタ集 2015/11

2015.11.17

#うちの画家キャラが描く絵の作風について語る
「蒼血」の飯田馨は美術の先生なんだけど目玉ばっかり書いてる。シュールなものからグロまで。ちゃんと人物画や風景画も書けます。でも目玉。目ん玉大好き。粘土で造形することも多い。
その目玉と自分の視野をリンクさせて遠隔透視ができます。


2015.11.19

ファンタジー書くの大変だよね……階級制度を定めるために古代ギリシャの哲学を学んだし、魔法とは何かを定義するために物理学(力学と宇宙論)を勉強した
世界に混ぜる「嘘」の量が増えるほど頭を使うし、「ぼくのかんがえたさいきょうのせかい」を説明するだけの小説にならないか疲れる

数学の無矛盾性が保たれるように、ファンタジー世界もなるべく無矛盾性を保ちたい
そして唯一生まれる矛盾こそ世界が変わる鍵でありたい
意外と楽しい(*´ω`)ふふふ


2015.11.20

「蒼血のアフェクシオン」の原案は中1のときに書きました。元々ファンタジー要素はなかったのですが、ふっと降りてきて今の形になっています。魔法使いの社会的立場は現在の日本のLGBTを元に考えています。


2015.11.25

タグを見る限りファンタジー社会って絶対王政が多いのか
僕のところの「蒼血」はまず神がいて、神に仕える巫女がいて、巫女に従う予言者と戦士と職人がいる
経済は共産主義
魔法を持たない国との交易で儲けているのでかなり豊か
両親がいない子供でも暮らしに困らない程度のお金は貰える

科学によって魔法が衰退?
魔法の方がからくりがシンプルで強いんだよ
というのが僕の世界の見解
不可能を可能にするのが魔法
人の願いを叶えるのが魔法

だから現代日本にも魔法が残っているのです
残っているというより、現代になって魔法の研究法が確立されたのか

10km先から体内にグレネード埋め込んでちゅどーんヽ(*´∀`*)ノとかしてるので魔法×近代兵器超絶楽しい
銃撃戦楽しい……うへへ


2015.11.28

今日いただいた感想「有希さんがタチ化してつらい」
大丈夫です、有希さんはタチです。
馨さんがネコです。

「蒼血」の加賀睦樹(むっつん)
いっぱいつらいことあったね、頑張ったねって抱き締めたい
きっと抱き締めたところで「何、ヤりたいの?」ってさらっと言うのだろうけど、彼にそう言わせてしまう過去に泣いてしまう #自分の創作っ子で一番抱きしめたいのは誰ですか

セックスでしか愛を確かめられない憐れな少年が好きです
抱き締めたところでホントにセックスしかしなさそうだけどな、むっつんイケメンだし(ダメ作者)

蒼血繋がりで今朝友人に「有希さんがタチ化してつらい」と言われたけど、有希さんバリタチです
むしろ男相手だと馨にしか勃たないノンケです
お堅い仕事(教師、医者、弁護士)をしてる人の色気が出てる瞬間って素晴らしくないですか?

お堅い仕事してるのは馨のことだね
教師の色気よいよ……絵の具で汚れた肌にゾクっとくる

同じ友人から「睦樹さんはリバ化してほしい」とLINEが来たのだがそうだよ!!!むっつんリバだよ!!!!!と叫んでるなう
よく読んでくださって嬉や(*T^T)



ランキング参加中です
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へにほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ


更新通知をLINEで受け取る


←前のページ 目次 次のページ→


web拍手 by FC2
2015/12/07 (月)
蒼血のアフェクシオン

覆面作家企画7に参加します

こんばんは、佐倉愛斗です
覆面作家企画7に参加しております
これは名前を出さずに小説を公開して、誰が書いたものか推理する企画です
よろしければ僕を探し出してくださいね

■作者名
 佐倉愛斗
 「さくらさん」と呼ばれることが多いです

■サイト名&アドレス
 渇き http://loveandautumn.blog.fc2.com/

■参加ブロック
 Fブロック
 fantasticなブロックです。多分。

■自己紹介、プロフィールページはありますか?
 profileをご覧ください
 大したことは書いてありません
 カッコつけすぎですね

■好きな(得意な)ジャンルはなんですか?
 恋愛小説です
 BLが多いですが様々な性別の人が登場します

■好きな作家さん&作品を教えてください。
 漫画家の雲之助先生、横槍メンゴ先生の作品が好きです
 小説は桜庭一樹先生、石田衣良先生の小説をよく読みます
 結城浩先生の「数学ガール」シリーズが大好きです

■最近読んだ本の中で、オススメの1冊と言えば何ですか?
 加藤シゲアキ先生の「傘を持たない蟻たちは」
 短編集なのですが、その中の「染色」で描かれた鮮烈な激しい恋に惹かれました

■創作以外の趣味はなんですか?
 ジャニーズの大ファンです
 コンサートへ行ったりテレビを見たり雑誌を買ったり
 ジュニアの成長を見守っていると幸せを感じます


■今まで、覆面作家企画に参加されたことはありますか?
 初参加です


■この作品を書くのに、どのくらい時間がかかりましたか?
 案はお題を見てすぐに浮かびました
 プロットに3日、本文を書くのに2日、推敲に2日かかりました

■ズバリ言って、今回、あなたの作品を推理するのは簡単ですか?
 とても僕らしい作品に仕上がったので、僕のことを知っている人には簡単だと思います

■この企画のために書いた作品、他にもありましたか?
 これ1本だけを書きました

■この企画への参加作品以外で、一番最近書いた作品は?
 同時期に書いたものは宿語りのシーガルへ寄稿しました

■その作品は、推理のための重要なヒントになりますか?
 系統は同じなので大ヒントですね

■企画への意気込みをどうぞ。
 まずは自己紹介となる小説を書きました。
 企画の意向に反しているかもしれませんが、隠れるのは次回以降のお楽しみです。
 こんな物好きなことを書く奴もいるのだとどうぞ知ってください。
 皆さんの作品を読むのもとても楽しみです。

年末のお楽しみ。僕も存分に楽しもうと思います!
どうぞ一緒に楽しみましょう。
web拍手 by FC2
2015/12/06 (日)
trackback (0) : comment (0) : blog

300字SS 思い出

 玄関のリースは注連縄に変わり、ほんの少し静かな日々がやってくる。見慣れない特別番組から目を離して大好きな人に電話をかけた。
「再来年の初詣は二十歳になるし振袖着ていくよ。成人式用に買ったし」
「まだ来年の初詣もまだなのに、鬼が笑うよ?」
 画面越しに彼が笑う。今、笑うということは、彼は鬼なのだろうか。彼の頭に角はないから鬼じゃないな。テレビ電話って便利ね。
「いいじゃん、見たいでしょ? あたしの振袖姿」
「そりゃ見たいけど気が早いよ」
 永遠などないと泣いた彼の顔を思いだす。それでもあたしは信じたい。
 一時間、一日、一か月、一年。君と巡る季節は鬼だって微笑むくらいきっと綺麗だよ。
 どうか来年も君といられますように。




こんばんは、佐倉です。お読みいただきありがとうございました。
Twitter企画「Tw300字SS」に参加しました。
何故タイトルが「思い出」なのか考えてくださると嬉しいです。
読みましたのサインに是非とも拍手のほどよろしくお願いいたします

ランキング参加中です
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へにほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ


更新通知をLINEで受け取る
web拍手 by FC2
2015/12/05 (土)
300字SS

140字SS 051~055

051 ヤマアラシ

僕らは優しすぎるんだ
だからお互いが自らを傷付ける
そんなのって、救われないな




052 大人の味

煙草の香りがするキスって、くらくらしちゃうわ
アルコールの味がするキスも一緒に酔ってしまいそう
悪いことしている気分になっちゃう




053 くちづけ

早織はぎゅっと目を閉じた。鼻と鼻とが触れあう、吐息の熱を感じられるような距離に彼がいる。佐織には自分が触れられることを期待しているのか、怯えているのか、よく分からなかった。そっと、柔らかいものが唇に触れる。呆気ないその行為に早織は感激していた。




054 (不)透明

透明に見えるものでも、たくさん集まれば不透明になるんだよ
ほら、遠くの山が空気で霞んでる




055 雨の止まない街

 私の住む街には雨というものが降り続いていると分かった。
「分かった」というのも、今まで「雨」と呼ばれる水の粒がいつも降り続いていたからこの現象に名前があるのだと旅人に聞くまでは知らなかった。
 旅人は「止まない雨はない」と言ったけれど、この水が落ちてこない状態を私は想像できないでいる。







ランキング参加中です
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ


更新通知をLINEで受け取る
web拍手 by FC2
2015/12/04 (金)
140字SS

vanilla 02

「ショー? ショーなら今、しているじゃない」
 シャルは男の問いに呆れたように答えた。周囲の客がざわつくのが分かる。
「私だけのショーが見たいんだ」
 スーツ姿の男は自分を見下すシャルから目を逸らさなかった。シャルは鼻で笑う。
「僕とセックスしたいなら裏のマネージャーを通してね。僕はタダじゃないんだ」
 シャルは素足で男の鼻を軽く蹴ると、立ち上がって「興が覚めたわ」と舞台の裾に戻って行った。ショーを中断されたことに怒る客の怒号が気持ちよくてしょうがなかった。

「で、お前はそのおっさんのせいでショーをやめて帰ってきたのか」
 夜蝶のシャルと呼ばれる少年は目の前の男、劇場支配人の北原誠司に頬を叩かれた。ジン、とした痛みが彼に生きていることを感じさせる。小汚い狭いアパートの一室。いつから干していないのかも分からない布団をかけられたベッドの上。手首を荒縄で縛られた状態で北原に押し倒されている。北原の男にしては長い髪がシャルの上に影を落とした。
「だって、あのおっさんときたら、僕を前にしても息を乱しもしないで突っ立っているの。それに、不満の溜まった客の顔を見るのも最高。みんな僕に平伏せばいい」
 もうひとつ、シャルは北原に頬を叩かれる。涙が頬を伝うのが気持ちいい。
「今度勝手に逃げたら食事は水と俺の精液だけだと思え」
 シャルは北原に髪を掴まれると、充血したペニスを口に押し込まれる。まるで性具のように頭を前後させられ喉の嫌なところに当たる度に嘔吐くが北原は気にも留めなかった。シャルも応じるように舌で受けとめ、吐き出される液を一滴残らず卑猥な音を立てて吸い取る。シャルは嫌だという感情を忘れていた。否、思いだすことをやめていた。
「ショーではサディスト気取ってるくせにいざセックスすると真性のマゾだな、――ちゃん?」
 北原はシャルの名を呼びながら彼の膨らんだものの先を爪ではじく。それは赤く腫れて蜜をどろりと垂らしていた。幼い身体つきからは想像できない凶悪なそれを玩具のようにこねくり回す北原をシャルは息を荒くしてじっと睨んだ。
 シャルは最高のサディストだ。何故なら彼自身が最高のマゾヒストだからだ。
 そう北原に教えられたのはほんの数年前、しかし幼いシャルからすればとうの昔のことのようだった。
「誰も知りはしないさ。お前が『されたい』ことをショーでしているってことをさ」
 北原がシャルの顎を強く掴んでベッドへ投げ飛ばす。今晩のショーで顎を蹴り砕いた男の顔をシャルは思い浮べる。骨折の痛みを想像するだけで絶頂を迎えてしまいそうだった。砕けた骨がぶつかり合う音が体内に響くのはどんな波だろう。絶頂より痛い波だろうか。切れた血管と神経が磨り潰される痛みはどんなエクスタシーを与えてくれるだろうか。玩具のように壊れたら捨てられる屈辱はどんなに惨めだろうか。ショーの合間もひたすら自らに痛めつけられる自分を想像してはゾクゾクとしたものを感じていた。
「こんな変態は一生こうやってショーをして稼げばいいのさ」
 シャルは北原にうつ伏せで脚を開くと、もっと、と求めた。
 北原はシャルの腰に留まる黒揚羽を撫でると、一思いに秘孔を貫いた。嬌声を上げて官能の淵に落ちていく。尻を平手で叩かれる度に手首を縛る赤い縄を噛みしめてぽろぽろと涙を零す。
 絶望こそが快楽だと、このときシャルは思っていた。



やっとvanilla2話目です。長らくお待たせいたしました。
頭文字が大文字なのか小文字なのか未だに分かっていなかった作者です。
よろしければ拍手をお願いします。

ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ



←前のページ 目次 次のページ→

web拍手 by FC2
2015/12/01 (火)
vanilla