140字SS 101~105

101 あなたは子猫

「今日も君の夢を抱いて眠るよ、子猫ちゃん」
 引きつった顔で君が言うものだから、とりあえず頬をつねった。
「何の風の吹き回し?」
「先ほどゲームに負けた罰ゲームです」
 正直に白状したことは褒めてやる。
 僕は囁く。
「君と夢で会えるのを楽しみにしているよ、子猫ちゃん」
 真っ赤になる彼がおかしくて。


102 金魚の尾

 ゆらり。ゆらり。丸い小さな世界で揺らめく赤。
 捕まえたくて、触れられなくて、閉じ込められて。
 宝箱の中に飾られた赤い金魚はただ泳ぎ続けて、小さな世界で生きている。
 外の世界は危ないから、とばぁばは言うから、僕もこの金魚と一緒。
 ゆらり。ゆらり。僕の心を撫でるように揺れる。


103 大学ノート

 はじめの一言は、とても丁寧に、綺麗な字で書いた。愛してるよ、と美しい言葉で飾り付けて。
 ところがどうしてだろう、気付いたら馬尾雑言が並び、書き殴ったような汚い字でノートは荒らされていた。
 このノートも最後まで使い切れなかったな。
 最後だけは丁寧に。さようなら、愛した人よ。


104 赤で塞ぐ

「あなたのことが――」
 言いかける僕の唇を、真っ赤なあなたの爪が止める。
 たとえ世界が許さなくても、あなたへの思いを止められない。
 でもあなたはその言葉だけは言わせてくれない。
 僕が君を守ると言ってもきっとあなたは許してくれないのでしょうね。
 真っ赤な爪の根元、薬指にシルバーリングがある限り。


105 彼岸花の舟

 彼岸花で編まれた舟で川を進む。
 こぽりこぽりと音を立てて沈みながら。
 ねえ、早く乗りましょう? 死に遅れちゃうわ。





ランキング参加中です
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ


更新通知をLINEで受け取る
web拍手 by FC2
2016/06/24 (金)
140字SS

銀杏の花

 秋晴れの空気はひんやりとしていて、どこかもの寂しい。でも真っ白な雲と空の青さが、僕の心の中に清々しい風を吹かせてくれる。玄関先ではまだ気持ち早かったかもしれないと思っていた手袋も、ゆっくりと並木道を歩く今はしっかりと役目を果たしてくれている。
 今日は零くんと一緒に映画に行く約束をしている。何かと理由をつけて零くんに会おうとする僕は、少し欲張りなのかもしれない。そう思うと自然と頬が緩んだ。
 その時、ざぁっとつむじ風が僕を覆った。反射的に目を腕でかばった僕の手のひらに、一枚の手紙が届いた。開いてみると秋を告げる黄色に目が焼かれた。そして何者かに誘われて顔を上げると黄金色の大樹がすきっと立っていた。
「銀杏の木か……」
 僕はまだ待ち合わせまでに時間があることを確認すると、彼がそびえ立つ公園へと足を踏み入れた。
 銀杏の木の下には、一面黄金色の絨毯が広がっている。適当な場所にしゃがみ込むと、僕は手袋をとって一枚一枚秋の手を拾い始めた。拾った葉を重ねていくと、ただのバラバラの葉が一つの美しい花へと姿を変えてゆくことを僕は知っている。ふと幼いころに父さんと優しかった頃の母さんと秋が来る度に作ったことを思い出した。
 一段落し、適当な輪ゴムで根元を留めると、誰かが泣いている声が聞こえた気がした。今まで夢中になっていて気づかなかっただけだったのだろう。割と近くのようだ。
 公園をぐるっと見渡すと、すすり泣く声の主は直ぐに見つかった。ブランコに腰掛けて涙を小さな掌でこすりこすりしていたのは、まだ小学校に入ったばかりくらい見える男の子だった。薄い色の髪は乱れ、肩には木の葉の欠片がひっついている。長袖のシャツ一枚にデニムの長ズボンという外に出るのは寒そうな格好だが、きちんとした身なりからして家出をしたか迷子かのどちらかだろうという見当がついた。
「どうしたの? 迷子ですか?」
 僕が声を掛けるとその男の子はびくっと身構えた後、僕を見てブンブンと横に頭を振った。
 男の子の座っているブランコの前にしゃがみ、僕は続けた。
「じゃあどうしたのかな? お兄さんに話してみませんか?」
 沈黙の間に、秋風が木の葉達を躍らせる音が聞こえた。そして男の子はポツリ、ポツリと話し始めた。
「シュウね、今日おたんじょうびなの。みんなはね、おめでとうって言ってくれるんだけど、シュウはイヤなの」
「シュウ君っていうんだね。どうして嫌なのかな?」
 シュウと名乗った男の子はまた溢れてきた涙をシャツの袖で拭うと、涙で震える声で続けた。
「だってね、おたんじょうびがくるとシュウが死んじゃう日が近づいちゃったのがわかるの。でもどうしてみんな『おめでとう』っていうの?」
 僕は驚かされた。こんな幼い子供が死を恐れて泣くなんて。心が痛んで、僕も哀しくなった。
 しかし僕は伝えなくてはならないことがあると分かっていた。
「シュウ君。誕生日はね、お祝いをする日なんですよ」
「えっ?」
「一年間元気でいられて、また一つ成長したことをお祝いする日です。それにお誕生日おめでとうにはまだ別の意味があるんですよ」
 僕は銀杏の葉で作った花をシュウの前に差し出した。
「生まれてきてくれてありがとう。僕と出会ってくれてありがとう、って感謝する日なんですよ」
 僕は精一杯の愛情をこめて笑ってみせた。確かに死は刻々と近づき恐ろしいけれども、僕たちは日々感謝し笑って生きていくのだから。
「おにいちゃん。おにいちゃんも生まれてきてくれてありがとう」
 シュウもいつの間にか笑っていた。それからバイバイと微笑みあって、シュウは住宅街へと駆けていった。
「渚先輩」
 僕の首に温かい物が掛けられた。多分これは彼のマフラー。
「零くん……ありがとう」
 彼のぬくもりが嬉しくて、僕は伝える事にしたんだ。
「零くん、生まれてきてくれてありがとう」
 そう言って片方の手袋を差し出した。
「渚先輩。こちらこそ、ありがとう」
 そして僕たちは手をつないで歩き始めた。僕たちにこの暖かい微笑みが消える事はないだろうと思いながら。



お読み頂きありがとうございます。
僕の処女作「青嵐吹くときに君は微笑む」の番外編をお送りしました。
実は零と渚が出会ってから初の秋は、渚がニューヨークへ留学してしまうのでこの話は成り立たないのです。
そんな「もしも」な話ですが、出会ってくれてありがとうという思いをこめてこの作品を引っ張り出してきました。
このサイトも2周年。今後とも自分のペースで更新しますがまた是非楽しみにいらっしゃってくださいね。

ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ



目次

web拍手 by FC2
2016/06/23 (木)
青嵐吹くときに君は微笑む

140字SS 096~100

096 Sirius

 闇夜にひとつ、シリウスが光る。彼は遠く、僕には辿りつけないほど遠くにいて、もしかしたらもう死んでいるのかもしれない。
 鼻先が冷たくて痛い。
 僕が見ているのは幼い彼の姿。今、彼はどんな姿をしているの?
 ねえ、明日も光っていてくれる?
 僕の声も、届いているかい?


097 涙の色

 ここは青、ここはマゼンタ、ここは紫。
 あなたは繊細に感じ取る。
 人々の身を知る雨を受けて、雫の数だけ花をつける。
 涙にもいろんな色があるものね。
 私が今泣いたら、あなたはどんな色の花を咲かせるのかしら?
 抜け殻になった白い紫陽花を、部屋の隅にそっと飾った。


098 虫刺され

 気づかなかったら何も思わないのに、見つけてしまったら気になってしょうがない。
 あなたの嘘にどうして気づいてしまったのだろう。
 首筋に隠れた嘘も、他人の香水の香りも、気付いたときには痒くてしょうがなかった。
 少し腫れた右腕に軟膏を塗って、貴方への殺意を丸めた新聞紙に込めて。


099 月兎

 枕が濡れる夜。私はベッドの横のカーテンを全て開けた。
 潤んで歪む月に帰りたい。ここに私の居場所はあるのかしら。
 優しい光に照らされて、睫毛の先の雫が揺れるのが見えた。
「ここにいていいよ」
 光の先にいるうさぎが跳ねて、私に頬ずりするの。
 目を閉じて、今日の私とさよならするわ。
 ありがとう。


100 贅沢

「のり弁当。今日はタルタル付きで」
「はいよー!おにいさん、今日何かいいことあったんかい?」
  笑顔が素敵ないつもの弁当屋のおばさんに、ちょっとね、なんてこみ上げる笑みをこらえて小銭を渡す。
 帰ったら早速あの子に電話しよう。
 そして言うんだ、デートに行きませんか?って。




ランキング参加中です
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ


更新通知をLINEで受け取る
web拍手 by FC2
2016/06/17 (金)
140字SS