おやすみ

「アヤカ、どうしたの、その髪」
 ああ、これ? と真緑の髪の襟足を彼女は摘んでみせた。昨日、講義室で会ったときは艶やかな黒髪を胸に垂らしていたというのに、今日はショートのウルフヘアで、刈った草のかたまりを連想させるような、艶のない緑色をしていた。
「それがね、今朝、夢で見たの。私が緑の短髪にしているところを」
 は、はぁ。と溜め息しかでなかった。彼女はこんなに変わり者だっただろうか。
「それで講義さぼって美容院?」
「そう、二万円もしちゃった。ブリーチって高いのね」
 だからお昼は学食ね、とアヤカは付け足した。

 翌日のアヤカは眼鏡をかけていた。黒縁の大きな、一目で伊達だとわかるサイズ。
 理由を聞くと「夢で見たから」。
 一体アヤカの夢はどんな趣味をしているのだろうか。
 次の日は、学ランで登校し、その次の日は、喋ったこともないチェックシャツの男の子たちと学食を食べると言い出した。

「アヤカちゃん、どうしたんだろうね」
 金曜日は午後の講義がないので、私は彼氏のジュンと裏路地にあるラブホテルでごろごろと怠惰な時間を過ごしていた。服を脱いでベッドで一緒に映画を観る。時折キスをしたり抱きしめてみたり。慣れきったこの時間を過ごすのが私たちの金曜日だ。
「アヤカに病院紹介したほうがいいのかな……この場合、何科?」
「さあ、一番妥当なのは精神科じゃない? 少なくとも外科でも歯科でもない」
 だよねぇ……と私はジュンの腕の中で唸った。今日の映画はハリウッドのなんとかいうタイトルが思いだせないアクションもの。派手に車が爆発する度にいくら予算がそこに使われているのか気になる。あ、また爆発した。
「ジュンは最近、何か夢を見た?」
「そうだな、ロボット人間と航海に出て、海賊に襲われて、海賊船の船長にロボットを差し出したら金貨と美女を貰った」
 ここで見た映画がいくつも混ざったような内容だ。美女は多分私ではない。
「ジュンは美女を貰ったらどうするの?」
 どうせジュンのことだから抱くのだろう。
「もちろん、抱くね」
 ほらね。やっぱり。
「私という美女がいても?」
 いささか意地悪だっただろうか。でもこういうものこそ恋人のやりとりだ。
「ミサキには敵わないな」
 もう一度車が派手に爆発したが、私たちはその映画を見ることはもう無かった。

「ねえ、ミサキ」
 緑頭のアヤカが私を廊下で呼び止めた。
「ジュン君と別れてくれない?」
 彼女は私に言い放った。何かの冗談なのかとアヤカを見るが、真っ直ぐな瞳で口は真一文字に結ばれていた。
「何言ってるの? どうしたの、アヤカ」
「今朝、私とジュン君が付き合っている夢を見たの。だから、別れて」
 また「夢」か。
「アヤカ、おかしいよ。ジュンは私と付きあってるの。それが現実なの。まだ眠っているの?おかしいよ」
 私はアヤカの肩を掴んで揺さぶった。私の大声に廊下を行く人々が私たちのことを一瞥して歩いていく。
「おかしくなんかないよ。ここはまだ夢だもの」
 アヤカは眉尻を下げて、綺麗に笑ってみせた。
 アヤカはおかしくなった。そう私は確信した。
「ジュン君をくれないなら、私、もう一度寝るわ」
 アヤカは私の手を払って講堂の階段を昇っていく。
「ねえ、アヤカ、ねえって」
 私の声は届いていない。何かに誘われるように上へ上へ。八階にたどり着くとアヤカは窓に腰掛けた。

「おやすみ」

 アヤカはそう言い残すと、背中から、緑のベッドに倒れ込んだ。
 アヤカは深い眠りについた。永遠の夢の中へ。



お読み頂きありがとうございます。
「うそもの」最終回になんというお話を持ってきたんだ僕は……と反省しております。
ご参加いただいた皆様、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
よろしければ拍手をぽちっとしてくださると作者が喜びます。

ランキング参加中です



目次
web拍手 by FC2
2016/09/29 (木)
嘘つきは物語の始まり

カクヨム登録

こんにちは、佐倉愛斗です。
「嘘つきは物語の始まり」も今週で最後ですね。
たくさんの方に参加していただけで嬉しいです。
当企画の自創作分はまとめて本にしますのでよろしくお願いいたします。

本にするということはそうです、イベント参加します。
名古屋コミティア49に参加しますので、またサークルスペースが発表されましたら改めて告知します。

さて、本題ですが、小説投稿サイト「カクヨム」さんに登録しました。
小説をカクヨムでも読みたい!とのお声をいただいたのでお試しです。
今日、手始めに「Vanilla」を掲載いたしました。
今後、長編小説を連載する場合はカクヨムさんにも掲載しますので、読みやすい方で読んでみてくださいね。
それでは、よろしくお願いいたします。
カクヨムはこちらから→カクヨム 佐倉愛斗
web拍手 by FC2
2016/09/26 (月)
trackback (0) : comment (0) : blog

コイゴコロ

 これは自慢と言うよりは、過去の笑い話だと受け取ってほしい。

 私には中学生のときにファンクラブがあった。私のことを熱狂的に好きだという少女たちがいつの間にか私の周りを取り囲んでいたのだ。
 ひとつ前置きしておくが、私が通っていた中学校は公立の共学校で、地元の小学校からいくつか集まってひとつの中学校になっていた。そして私は別段ボーイッシュとか、イケメンとか、美人とか、そういうものでもない。女子校ならではのあるある話ではないのだ。

 きっかけ、というものはきっとこれだろうというものがある。
 私は演劇部のただの部員で、文化祭でありふれた恋愛モノの演劇を披露した。その演目の中で、私は女性に恋をする役どころであった。結局はこのご時世に倣って主人公の少女は王子様と結ばれるのだが、少女に恋をして叶わない愛の言葉を高らかに歌うシーンに体育館の空気が張り詰めた。
 ファンクラブの一員と名乗った女生徒から多く聞いたのは、この演目で「どうして女性に恋をしても結ばれないのか」と疑問に思ったらしい。
 私は役とは違い、レズビアンではない。今のところ、女性とお付き合いしたいと思ったことは、彼女たちからしたら残念ではあるかも知れないが、ない。
 それでも少女たちは熱狂的に私に愛を向けた。羨望という残酷な愛を。

 どれだけ熱狂的だったか。
 まず私は廊下で知らない女生徒たちに名前を呼ばれ、握手を求められた。握手をした女生徒は目に涙を浮べて「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。
 次に、部活の見学者が増えた。演劇部に興味があると言うようには到底思えない人ばかりで、私に熱視線を送るばかりだった。部長には呆れられたが、咎められなかったことが救いであったかもしれない。咎められていたら、彼女たちに私は怒りを向けただろう。
 そして私はたくさん告白されるようになった。勿論、女生徒からだ。人数は十を超えてから数えていない。恋愛に疎かった私は、ただ「ありがとうね」と笑顔でかわしていた。気持ち悪くは無かったが、「何故」という疑問が大きかった。どうして私と話したいのだろう。どうして私に触れたいのだろう。どうして私を見ていたいのだろう。
 ちょっとした人気者、という地位に私は少しばかりの優越感を覚えていた。そしてどうせ冗談ではやし立てているのだろうと、好意に笑顔で返していた。
 私のファンクラブ、という言い方も恥ずかしいが、彼女たちは非常に良心的だった。物が盗まれることも、家まで押しかけられることもなかった。ただただ私に愛を向けていたのだ。
 私には分からない愛を。

 さて、そんな最中、私はある男性に恋をした。部活で関わりのあった美術部の男子生徒だった。私は彼のことを思うと体が火照るような、涙が出るような思いに苦しめられるようになった。
 彼と話せたらどれだけいいだろう。彼が笑いかけてくれたらどれだけいいだろう。今、何をして、何を考えているのだろう。
 恋する乙女となってしまった私は、彼女たちの思いの意味を知ってしまった。

 私は彼に告白した。簡単に「好き」の二文字で。
 彼の返答は「ごめん」だった。

 私は泣きに泣いた。一人、枕を抱きしめて夜中。月が輝くのが恨めしくてカーテンを閉めた。そして私に今まで向けられていた愛の重さに、私は体中を吐き出した。

 好きって、こんなにも残酷なのか、と。

 次の日、私は部活の後輩に呼び出された。彼女も私のファンの一人だ。
「先輩」
 彼女の唇は震えていた。
「私、先輩のことが好きです」
 ええ、知っているわ。痛いほどに。
 でも私は残酷にも、彼女のことを恋愛対象として見ることはできなかった。どうして両想いになれないのかしら、なんて私は叫んでしまいたくなった。
 唇をきつく結んで、それからお得意の笑顔を作った。
「ありがとう、嬉しいわ」
 私は知らない振りをした。恋を知る前の私。あなたは冗談で言っているのでしょう? という目で。
 彼女が走り去っていった後、私はその場で泣き崩れた。好意を向けられることが怖くてたまらなくなった。それだけのたくさんの愛を無下にして殺していたのだと。

 熱狂的だった私のファンたちは、いつしか静かになっていた。
 各々好きな人を見つけたのか、単に飽きたのか。
 私にはそれが丁度良かった。

 大人になった今だから笑い話にできる、私の幼い自慢話。



お読み頂きありがとうございます。
恋心を知ってしまった少女ほど愛おしいものはありません。
よろしければ拍手をぽちっとしてくださると作者が喜びます。

ランキング参加中です



目次
web拍手 by FC2
2016/09/22 (木)
嘘つきは物語の始まり

涙色の紫陽花

 僕は今日も花を集めていた。落ちた椿、乾いた向日葵、色のない紫陽花。
「モモちゃん、またそんなもの拾ってきて」
 母はいつも僕が集めた花たちを捨てた。かさかさとした死んだ花たちを。

 僕は学校でも色のない花たちを探した。
「モモって馬鹿だもんね」
「気持ち悪い」
「あの子は頭がおかしいからしょうがないよ」
「そういうビョーキだよ」
「かわいそう」
 口々に周りの人たちは言ったけれど、僕の耳にはうるさすぎて何を言っているのか分からなかった。でも、とても悲しかった。みんな笑っている。生きている。授業に出るようにと先生に言われても、教室は生きている人たちがいっぱいで、僕は泣きだしてしまった。怖い。怖いんだ。みんなが僕を壊そうとする。
 教室を飛び出して僕は校庭の片隅で枯れ葉や落ちた花弁を撫でていた。
「モモちゃん、どうして落ちた椿や枯れ葉を拾ってくるのかな」
 保健室の先生はかがんで僕に聞いてくれた。
 僕には難しくて、怖くなってぼろぼろと涙を落とした。
 保健室に飾られた花瓶の花は僕を嘲笑っているようだった。

 高校生になっても、僕は枯れた花を探しに野山を歩いた。
 多くの花は雨に溶けて腐っていくから、枯れた花を見つけることは難しい。でもたまに出会う屍に僕は心を落ち着かせた。
 僕は「死」に落ち着くのだといつの間にか知った。
 そして高校では「死神」と呼ばれて気味悪がられているのだと聞き取れるようになった。
 シニガミってなんだろう。みんなは死ぬのが怖いのかな。
 僕はいつしかこう考えるようになっていた。

 生きていることは恐怖で、死ぬことが安寧だ、と。

 勉強は嫌いじゃなかった僕は、地元の国立大学に入学した。
 自分が「生きている」という現実から逃げるために、僕は学問に没頭することが増えた。
 でもそんなある日、乾いた花束を抱えた彼女に出会った。
「私、ドライフラワーでインテリアを作るのが好きなの」
 そう話しかけてくれた彼女に、真っ白な紫陽花を貰った。
 部屋の角にそれを飾ってみた。他の腐臭がする死んだ花たちよりずっと美しく、高貴なものに思えた。
「紫陽花は土壌の酸度によって色が変わるでしょう? 雨という涙の色に染められるの。そんな優しい花なんだよ」
 彼女は僕を抱きながらベッドの中でそう呟いた。
「僕は、生きているものが怖い。君のことも、怖い」
「怖いのは、どうして?」
「生きているものは、いつも僕のことを睨んで、蔑んで、暴力を振るうから。動いて、呼吸して、食事して、排泄して、眠る。その中でたくさんのものを傷付ける。僕のことも、傷つける」
「でも私に触れられたのは何故?」
「わからない。君は、死んでいる?」
 彼女はふふ、と微笑むと、僕が眠るまで髪を撫で続けていてくれた。

 彼女の葬式は、それから一週間後のことだった。
 死因は交通事故。たくさんの生きた花が手向けられた。暴力的なまでの生きた花たちの真ん中で、彼女は優しい死に顔で微笑んでいた。

 彼女の遺灰を遺族から少しもらった。
 小さな瓶に詰めて、真っ白な紫陽花の横に置いた。

 この紫陽花は、今、何色に染まるのだろう。



お読み頂きありがとうございます。
死と花をテーマに書いてみました。死は永遠で、生は有限。そんな恐怖を感じたりするものです。
企画も折り返し地点、どうぞよろしくお願いいたします。

ランキング参加中です



目次


web拍手 by FC2
2016/09/15 (木)
嘘つきは物語の始まり

 私の母は「赤」を売っていました。その「赤」は薔薇のように情熱的で、夕焼けのように情緒的で、女性の体の真ん中にあるものだと母は教えてくれました。
 母は「赤」を売りに行くとき、いつも余所行きの素敵な服を着ていました。仕立ての良いワンピースを着て、私を抱きしめてこう言うのです。
「今日もいい子にして待っていてね」
 名前の知らない甘い香水の匂いが母の香りです。
 ピンヒールのパンプスを履いて、玄関先でタクシーに乗り込む。それがいつもの母でした。

 私は普通の子供と同じように反抗期を迎えました。
 遅くまで帰ってこない母のことが憎く思えて、私は「いい子」をやめて夜の街に繰り出しました。
 夜の街の喧噪はとても寂しかったのを覚えています。
 母はいつも高価なものを身に付けていました。あの香水はシャネルの五番。ワンピースもパンプスも百貨店のVIP向けフロアで売られているものだと知りました。
 母は私を一人で育てるのには十分なお金を持っていました。
 貧乏はしていない。けれど心は貧しく育ってしまったのかもしれません。

 池袋にあるクラブに足を踏み入れた私は、一人の男と知り合いました。
 彼は成人したばかりのただの大学生だと名乗りました。しかし身に付けているものは清潔な高級さを感じさせ、嫌でも「赤」を売る母を思いだしてしまいました。
 ベース音が心臓まで揺らすクラブの端、母の香りがする彼の腕の中で私は大声で泣きました。苛立ちや懐疑よりも寂しさが大きかったのかもしれません。私の泣き声は彼にしか聞こえなかったことでしょう。
 彼に連れられて、ホテルへ行きました。そこは派手な外装のよくあるラブホテルではなく、落ち着いた雰囲気のビジネスホテルでした。空いている部屋の中で一番広いセミスイートルームに私を彼は案内しました。
 部屋につくと彼は私の唇に触れるだけのキスをしました。
「君も『赤』を持っている。そのことを知っているかい?」
 考えたこともありませんでした。薔薇のような情熱も、夕焼けのような情緒も、あの母しか持っていないのだと、そのときの私は考えていたのです。
「知りたくないなら、もう触れない」
 私は母の「赤」に憧れていたのだと、このとき気付きました。
「知りたい」
 それが私の答えでした。

 彼は私にもう一度、触れるだけのキスをしました。背の高い彼は背を丸めて、私の髪に手を通して何度も触れました。キスを繰り返すうちに、私の真ん中が熱くなるのを感じたのを鮮明に覚えています。彼の舌が私の口を割り、ゆっくりと丁寧に私の粘膜の形を確認していきました。熱い吐息が漏れて、苦しかったけれど真ん中が彼を求めるのです。
 彼は私の両耳の形も唇と舌の粘膜でくまなく記憶していきました。その頃には私の真ん中から熱い何かが膝まで濡らしていきました。脚に力が入らなくなると、私は彼の体に雪崩れるように抱き付きました。すると彼は私を抱えて雲の上に乗せるようにキングサイズのベッドに私を寝かせました。後にも先にも、お姫様抱っこをされたのはこのときだけです。母と同じシャネルの五番と、微かに男の苦い香りがしました。
「脱がせるよ」
 彼は低い声で呟くと、優しく私のワンピースとブラジャーを脱がせました。普通の女の子ならば恥ずかしがるのでしょうが、何故か私はそれが普通だと思えたのです。服を着ているのが不自然で、布を纏わないのが自然だと。
 彼は私の未発達の乳房に手を添えると、優しくほぐしていきました。冷たい脂肪のかたまりが彼の手によって溶かされている。私の身体はどうなってしまうのだろうかと不安から、始めて私から彼にキスをしました。
「やっぱり君の『赤』は素敵だよ」
 彼は笑うと私の胸の先を口に含むと、温めるように優しく舌で撫でました。そのとき出た声は果たして私のものだったのでしょうか。私の真ん中から出た声はリンゴのように甘美なものに思えました。
 ショーツを脱ぐと、彼も身に付けていたものを全て脱ぎました。始めて見た男性の中心はどこか愛しく思えました。そっと手を伸ばすと、私の身体のどこにもない硬さと柔らかさを兼ね備えていて、その熱さに私の真ん中が波打ったのです。
「君の瞳、とても情熱的だよ」
 私がどんな顔をしていたか、鏡のないこの部屋では分かりませんでした。ただ、とても飢えていたことだけは確かです。彼が欲しいと、そう願ったのです。
 私の性器に、彼は触れました。幾重にも重なるひだを彼の舌が伸ばしていき、とめどなく流れる液を掬い取っては塗りこんでいきました。
「痛かったらごめんね」
 そう言って彼は細い指で私の真ん中に触れました。今まで開かれたことのない肉の壁が押し広げられる痛みに私は一筋の涙を落としました。同時に、宇宙の奥を見ているような情緒に私は胸が苦しくなったのです。
 彼はペニスに何か被せると、私に覆いかぶさり、もう一度暖かいキスをしました。
「君の『赤』を少しもらうよ」
 柔らかく硬く熱いそれが私の真ん中に触れる。痛みと苦しさがあるはずなのに、私は獣のような声をあげて身体を震わせました。
「いい子だね。もう少しこうしていようか」
 彼は動かないで私を抱きしめたまま頭を撫で続けていてくれました。
「これが『赤』なのね」
「そうだよ。でももうすこし頑張ってくれる?」
 私が頷くと彼はゆっくりとペニスを出し入れしはじめました。真ん中に先が触れる度に私はリンゴのような声をあげます。自然に帰ったような心地よさを彼は与えてくれました。
 私はそれから何度か絶頂を迎えると、彼も「白」を吐き出しました。
「貴方は何者なの」
「君のお母さんと一緒さ。君のお母さんは『赤』を売り、僕は女性から『赤』を引き出す。そういう商売をしている。君からはお金は取らないよ。たくさんの『赤』をもらったからね」
 母の売っていた赤は薔薇のように情熱的で、夕暮れのように情緒的で、そして血液のように巡っているものだと私は知りました。そして私は今、母と同じように「赤」を売っています。



お読み頂きありがとうございます。
母と娘のお話になりました。がっつりエロだけどくどくしないのが僕流です。
企画参加ありがとうございます。楽しんでくださいね!

ランキング参加中です



目次
web拍手 by FC2
2016/09/09 (金)
嘘つきは物語の始まり

嘘つきは物語の始まり

秋の夜長に行われる文豪たちの遊び。ルールはたったひとつ。「本当のことは言ってはいけない」
連作短編集です。
公式サイト→嘘つきは物語の始まり

本編

第零夜 自己紹介

佐倉愛斗と申します。裕福な薬売りの家に産まれて、毎日親に出されたよく分からない薬を飲んでいるうちに、自分が何者なのか分からなくなってしまいました。自分を探すために本を読んでいるうちに、物語に飢えるようになり、ここに来ました。楽しい物語を聞かせてくださいね。


第一夜 故郷

三毛猫のいる町
R15|思春期|憂鬱|猟奇的|猫
少年たちは今日も海沿いの堤防を自転車で走った。それが僕の退屈な思い出。あの日、猫が死ぬまでは。


第二夜 母


R18|母娘|性|商売
母は「赤」を売っていた。それは女性の身体の真ん中にある薔薇のようで夕焼けのようなもの。


第三夜 花

涙色の紫陽花
全年齢|死|涙|生
僕は死んだ花を集めることが好きだった。心落ち着かせる死の花を。


第四夜 自慢

コイゴコロ
全年齢|少女愛|恋|中学生
これは笑い話だと思って聞いてくれていい。私にはファンクラブがあった。


第五夜 夢

おやすみ
全年齢|大学生|精神疾患
「夢で見たから」そう言って彼女は髪を染めた。


usogataribanner.jpg
web拍手 by FC2
2016/09/02 (金)
novel

三毛猫のいる町

 それは海の見える町だった。小さな湾には漁船が並び、コンクリートの堤防が続き、やがて森に消えるような隔絶された小さな小さな町だった。
 僕は学校指定の銀色の自転車でユウと走っていた。堤防横のアスファルトは卵を落とせば目玉焼きが焼けるほど熱くなっていて、逃げ水がゆぅらりと僕たちを誘った。このまま走っていればこの町から、思春期の憂鬱から逃げだせる気がした。
「あ、猫だ」
 ユウが自転車のペダルを止めた。猫は茶と黒が多い三毛で、名産品の魚を干している棚の下で、うたた寝をしているのか、ただ目を閉じて世界の憂鬱を憂いているのか分からなかった。
 自転車を立てるとユウは店先の三毛猫を撫でた。猫は特に抵抗することなくユウの手を受け入れて、ただ身体を任せて撫でられ続けた。
「ミコトも撫でるか?」
 ユウの誘いに僕は乗らなかった。見知らぬ猫を撫でるのは見知らぬ人間に触れる痴漢と変わらない気がした。妊婦の腹を唐突に撫でるのと何も変わらない。そんな気持ちだ。
 この町には猫が多い。魚を食べるのは日本の猫くらいだと聞くけれど、漁師たちが可愛がるからか人になれた猫が多かった。どうして信用できるのか、僕には理解できなかった。
 入道雲が近付いている。夕立が来るのも近いだろう。僕は鞄の中が錆びないか気にかけて、ユウに帰ると告げて自転車で走り出した。

「ミコト、大変だ」
 それは晴れた日が続いた夏休み最後の日のことだった。
「何さ」
 電話越しに僕は気だるく返事をする。
 出したままの蚊帳の中で寝返りを打ちながら、震えるユウの声を聞いていた。
「いいから外に出てきてくれ、干物屋の裏だ」
 あそこまでなら歩いて十五分もかからない。けれど僕はいつものように銀色の自転車に跨った。
 干物屋に着くと、真っ青な顔のユウと、足元に黄色い吐瀉物が見えた。
「ユウ、気持ち悪くて呼んだの?」
 ユウは涙で汚れた顔を拭いながら、干物屋の裏手のコンクリートを指差した。ユウの胃液を踏まないように覗き込むと、猫が死んでいた。干物のように切り開かれた腹から出た内臓はところどころ啄まれた形跡があり、腐った肉からは日が当たらないせいか白い蛆が湧いていた。潮の香りが強くて腐臭はしない。どこを見渡しても猫の尾らしきものは見当たらない。そして猫の皮は、三毛色だった。
「猫が死んでるね」
「ミコト、これ、誰がこんな酷いことを」
 涙混じりの声は僕の脳の真ん中をピリピリさせた。
「さあな、変わった趣味のやつもいるものだね」
「趣味で、生き物を殺していいわけないだろ」
 ユウが声を荒げて僕の胸倉を掴んだ。興奮で荒い息は酸の臭いがして不快だった。
「絶対犯人を見つけてやる。こんなことしていいはずがない。学校中に張り紙貼ろうよ。なんなら町中に」
 どうして君は迷わないのだろう。疑わないのだろう。憂鬱ではないのだろう。

 次の日、九月一日。ユウは学校に来なかった。
 僕の憂鬱は人の肉を裂いても晴れなかった。
 でもこの町から出られるのだと思うと、少しだけほっとした。



お読み頂きありがとうございます。
自分で企画してみた企画に遅刻するという戯け者が僕です。
猟奇的な話を書いてみたくて書きましたが、うまくはまってくれたら嬉しいです。

ランキング参加中です



目次
web拍手 by FC2
2016/09/01 (木)
嘘つきは物語の始まり