青嵐吹くときに君は微笑む 19

 あけましておめでとうございます。
 あの日からというもの、俺は渚先輩の家に何度も通っています。たまに妹もついてきますが、好きだった人と実の兄がいちゃついているのを見せつけられるのはキツイと来る回数を減らしています。扇田さんは不定期にご飯を食べにやってきます。渚先輩が言うには、彼女は家出同然の状態で一人暮らしをしているので、給料日前になる、もしくは料理するのが面倒になると食べにくるらしいです。渚先輩が唯一の友達だから、と嬉しそうに笑うので俺も嬉しいです。一緒にご飯を食べて、公園でバスケを教えてもらったりして、少しだけえっちなこともして、楽しい冬休みを満喫しました。
 が、困ったことになりました。
「零、お前最近よく出かけるし、泊まりに行っているようじゃない。もしかして、彼女でもできたの?」
 現在、母に問い詰められています。お世話になっているなら挨拶したいから家に連れてきなさい。そうじゃないなら非行に走っていないか心配だ。来年は受験なのだから遊んでばかりいないで勉強しなさい。
 高校の先輩だ、とは言ったものの、同性の恋人だなんて、言ってもいいのだろうか。
「言っちゃえば? ママそういうの寛容だと思うよ? 私とカップリング戦争するくらいだし」
 妹の部屋で膝を抱えてめそめそ相談する兄の姿。なかなかに惨めです。
「アイドルの、カップリング? は割とネタというか、芸能人じゃん。俺らはリアルで、本物の同性愛者で、この先結婚できないし子供もできない人生オワタ組なわけだよ? 母さんが許すと思う?」
「これはまた相談案件だね、よし」
 滴はスマートフォンを開き、グループラインにメッセ―ジを送る。
「緊急事態。全員酒本邸に集合!」

「で、集まりましたが」
 現在、酒本邸のダイニングテーブルは『相原両親に零と渚の関係をどう説明しようか作戦会議』の本部になっている。メンバーは俺と妹、扇田さん、そして渚先輩だ。
先輩は何事だろうと首を傾げつつも手作りのスコーンに、これまた手作りのイチゴジャムを机に並べた。昨日イチゴがスーパーで大特価だったらしい。
一瓶は持って帰っていいよ、なんて言っているが、それこそ我が家でまことしやかにささやかれている俺に彼女できたんじゃないか疑惑が肥大してしまう。
 コホン、と滴が小さく咳ばらいをして話を始める。
「現在、我が家ではお兄ちゃんに彼女ができたんじゃないかと噂になっています。あの非モテ街道まっしぐらなお兄ちゃんにですよ? 由々しき事態であります」
「ほう、このクソ男にですか」
 こら、滴。そして扇田さんも乗るな。いつから俺はそんな低評価なんだ。
「そして現実は、彼女ではなく、そう、酒本渚先輩が彼氏なわけです」



お読み頂きありがとうございます。
青嵐もいよいよクライマックス。最終章も頑張っていきます。
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2017/02/28 (火)
青嵐吹くときに君は微笑む

青嵐吹くときに君は微笑む 18

 朝食は結局近くの喫茶店でモーニングを食べていた。コーヒー一杯分の値段でトーストとゆで卵がついてくる。さすが喫茶店王国だ。
「あーもーむかつくから小倉も付ける!」
「あたしも!」
 ガールズはぶりぶり怒りながらトーストにマーガリンとプラス百五十円で小倉あんをつけてかぶりついていた。
「渚先輩、食べられますか」
「あっ、うん。大丈夫。ごめんね、ご飯作れなくて」
 真っ青な顔で俯く先輩の手を俺は握った。嫌な汗で濡れた先輩の手は、いつもより小さく感じた。
 渚先輩は小さな口でもそもそとトーストをかじる。そうしては意識がどこかへ行ってしまったように止まり、手を机に下ろしていた。俺も喉の奥まで何かが詰まったような心地で何も食べる気がしなかった。
「もー野郎共しっかりしろ! 戦いたくば飯を食え!」
「そうだよお兄ちゃん、今こそ食べよ! 店員さん、トーストおかわり! あとサラダも!」
「あたしもおかわり!」
 彼女たちのパワーは何処から来ているのだろうか。俺たちは、なんて弱い。
「俺は、先輩のことを守りたい。それってエゴなのか?」
 肺から息が漏れだすように言葉が出る。
「僕は、零くんに出会えてよかったと思う。でも利用してたのかな。寂しいからってとりついて、それって――」
「あーもークソ男共!」
 扇田さんが机を叩いて立ち上がる。
「そんなうじうじしてないで、あのショタコンジジイに言ってやればいいんだよ。『僕たちは好きだから一緒に居るんだ』って。そこのうじ男その一、愛しい人を守りたいと思うのは自然な感情! そしてうじ男その二、寂しくない人なんていないの! 寄り添って生きていくのことの何がおかしいの?」
 以上! と叫んで扇田さんは座り直してゆで卵をかじる。彼女の言葉は厳しいようで心を解かすような温かさにあふれていた。今にも泣きそうだと思っていると、渚先輩が鼻をすすって涙を落としていた。
「僕、敦さんに言われたんだ。めそめそして鬱陶しい。可哀想ぶって悲劇のヒロイン気取りか。って。僕はただ、愛してくれる人が欲しかった。父も母もいなくなって、どうしたらいいのか分からなかった。間違った恋愛しかできなかったんだ。だからね、怖いの。零くんは、今は好きって言ってくれてるけど、いつかまた嫌われたら……」
「馬鹿なの?」
 今度は滴だった。
「嫌われる前提で恋愛するなんて私はしない。もう恋人になれないって痛いほど感じて、悔しくて、悲しかったけど、私は渚先輩に嫌われる前提で恋してませんでしたから。先輩は元カレのことを引きずってるんですよね? はい、お兄ちゃん続き」
 滴に人差し指を向けられる。俺は深く息を吸った。
「俺は渚先輩のこと、大好きです! 俺がいつまでも先輩のこと口説き続けます。先輩が悲しいときも嬉しいときも一緒にいます。俺がそうしたいから、させてください」
 渚先輩は狭い喫茶店のボックス席、俺の腕の中で泣き続けた。俺の幼い決意。ちゃんと受け取ってください。



お読み頂きありがとうございます。
愛知の朝食といえば小倉トーストですよ(偏見)美味しいですよね。
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2017/02/21 (火)
青嵐吹くときに君は微笑む

青嵐吹くときに君は微笑む 17

「よう、ナギ。元気そうじゃねーか」
 その男は覇気に満ちた、長身の、鬼のような身体つきの男だった。逆立った髪とえらの張った顔。強靭な肉体がスーツに包まれていることが分かる。そして、微かに煙草の苦い香りがした。
「敦(あつし)さん。おはようございます」
 渚先輩は敦と呼んだ男から目をそらす。何か言いたそうで、何も言えない。そんな顔だ。
「今月の生活費、それとちょっとしたクリスマスプレゼントだ」
 膨らんだ紙袋と、赤い不織布に包まれた箱を彼は差し出す。
「ありがとうございます。でも、プレゼントは受け取れません。僕たち、もう終わったんでしょ?」
「なんだよ、まだ気にしてるのか。相変わらず女々しい奴だな。ありがたく受け取って――」
「あのっ」
 滴が声を上げる。
「渚先輩とはどのようなご関係で?」
 滴の声は震えていた。厭味ったらしい男に立ち向かう。
「俺はナギの親父さんの顧問弁護士で、後見人だ。遺産の中から毎月の生活費を渡してる」
「それだけじゃ、ないですよね」
「ああ、そうだな。でも、君には関係ないだろ?」
 すごむ男に滴は、言葉を探して、でも、見つけられずにいた。
「敦さん、関係あるよ。そこのぼけっと突っ立ってるだけのクソ男、ナギちゃんの彼氏だから」
 扇田さん、頼むからもう少し言葉を選んでくれ。でも何も言えずに突っ立っていたのは事実だ。
 俺は一歩前に出て、渚先輩の震える肩を抱いた。
「あなたは、渚先輩の元カレですね? はじめまして、相原零、十七歳。酒本渚の彼氏です」
 ふうん、と敦は俺を値踏みするように足先から脳天まで見た。正直恐ろしかった。身長は俺と変わらないはずなのに幾分高く大きく感じて、屈強な肉体に、何より冷たい瞳が俺の腹をずたずたに切り裂くようで、睨み返すのが精一杯だった。
「彼氏、ね。ナギ、お前また『僕は可哀想な子なんです』って言って誰かに寄生するんだ。ホント、何も変わらないな。吐き気がするよ」
「俺はそんなんじゃ……」
 今朝、見た夢を思い出した。俺は渚先輩を救いたい。そう思うのは間違いなのか?
「いい加減にして。もう、帰ってよ」
 渚先輩の声は消え入るようだった。
「そうだな、朝食の邪魔しちゃったようだし、そろそろ退散するよ。また、来月な」
 そう言うと鬼のような男は革靴を履いて帰っていった。

「なんなの、あれ! もーお兄ちゃんのぽんこつ! なんで言い返せないのさ! バカ! 今すぐここから積もった雪にダイブしろ!」
 積雪三センチでそれをすると死にます。
 滴は叫びながら大粒の涙を零していた。「渚先輩を救いたい」そう願っていたのは滴も同じだったから。
 俺は渚先輩に同情しているのか? この恋心の正体はなんだ? 弱いところをみせてくれて、支えたいと思って、触れたいと思った。それはいけないことなのか?
 ぐるぐると気持ちの悪いものが内側から内臓を食い荒らしているようだった。



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2017/02/14 (火)
青嵐吹くときに君は微笑む

青嵐吹くときに君は微笑む 16

 それが夢だと気付くのは、覚めてからだ。
 小さな男の子が膝を抱いて泣いている。
「どうしたの?」と話しかけても泣くばかりで、俺は抱きかかえて家に連れ帰った。
 汚れた足を拭いて、痣だらけの体に湿布と包帯を巻いて、暖かいご飯を食べさせ、柔らかいベッドに寝かせた。
 しかし、俺は貧しかった。今日食べるためのなけなしの食事を与えてしまい、腹が鳴っていた。ベッドも他にないから、床にタオルを敷いて寝た。
 どこからともなく声がする。
「助けたつもりで、それはただの自己満足じゃん」
「彼は助けてと言ったの?」
「自分より大切な人なんているわけないじゃん」
「そのうち死ぬのはお前だ」
 その小さな男の子へ向いたのは、殺意だった。
 包丁を片手にベッドで寝息を立てる男の子に忍び寄る。小さな唇にたたえられた微笑みに、俺は――――

「――夢?」
 全身に汗を掻いていた。慣れないシーツの感触に振り返ると、渚先輩がいた。そうだ、クリスマスに、先輩の家に泊まって、それから、
「んんんんんっ」
 思いだすだけで体温がよみがえった。触れてしまった。先輩の全てに。気恥ずかしさと、少しの優越感。俺しか見たことのない渚先輩の顔。聞いたことのない声。感じたことのない味。真冬の朝を嗤うように顔が火照ってしょうがなかった。
「ん、零くん、起きた?」
 先輩の少しかすれた声。柔らかな笑み。それがあるだけで幸せだった。
「えっ、ちょっと、零くん?」
 先輩を腕の中に抱き寄せる。酒本渚はここにいる。尊いほどの現実。
 ゆっくりと唇を合わせると、見つめ合った。
「零くん、おはよう」
「渚先輩、おはようございます」
「朝ごはん作らなきゃだから、そろそろ起きるね」
 しかし俺は腕を解かなかった。
「もう少しだけ、こうしていてもいいですか」
「しょうがないなあ」
 先輩のぬくもりが消えないようすがりつく俺はいささか強欲だろうか。

「おっはよー! 朝ごはん何ー?」
 リビングに客布団を敷いて寝ていた扇田さんは相も変わらずけたたましかった。その横で寝ていた滴はまだ眠そうだ。待った、この二人を一緒に寝かせても大丈夫だったのだろうか。
「朝ごはんはイングリッシュマフィン焼くから、好きな具材を乗せて食べてね」
 やっふーい! なんて騒いでいた扇田さんはよっぽど先輩のご飯が好きなのだろう。
「滴、お前、その、なんともなかったか?」
「さてね、女は秘密の数だけ魅力になるのよ」
 寝起きにそのセリフが出てくる我が妹もどうなのだろうか。でも、元気そうでよかった。
 そのとき、インターフォンが鳴る。モニターを見た先輩が一瞬で真っ青になる。
「ちっ、アイツ、まだ来てるのかよ」
 扇田さんの舌打ちに、ただならぬことであることは分かった。



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2017/02/07 (火)
青嵐吹くときに君は微笑む