vanilla 06

「初日から夜這いとは嬉しいんだけど、どうしたのかい? シャル君」
「今から僕がここでオナニーしてあげるよ。見たいんでしょう?」
 シャルはゆったりと舐めるような口調で話す。シャルの瞳の中に暗い炎が宿っているようで、引田はごくりと喉を鳴らした。
「引田さんは絶対に触っちゃダメだよ。お客は演者に触れないのが決まりさ」
 シャルはシャツをはらりと脱ぎ捨てると、ベッドの上に膝立ちになり、脚を開いた。露になったシャルの素肌は薄暗い室内でも分かるくらいきめ細やかで美しく、白い磁器を思わせる。シャルはほっそりとした指を口に咥えると、引田を見下ろし、嘲笑う目をした。自分以外すべてが不要で害悪かのように語るその目を引田はじっと見つめた。
 唾液でぬらぬら光る指を後ろから秘孔にそっと押し当てる。固く閉じた蕾を開くように人差し指でゆっくりと撫で広げてゆくと、芯を持った中心が揺れて蜜を零した。
 シャルは眉間に皺を寄せて熱を持った息を吐いた。その吐息を肌に感じる距離でゆっくりと粘度をもった動きを引田はただただ見つめる。甘い、甘い香りがする。シャルの肌を舐めてしまいたい。肌だけじゃなく唇も、口腔も、腫れ上がったペニスも、シャルが広げているアヌスも、全てを味わいたい。引田は獲物を前にした自己の野性に流されようとしていた。
「ふぅ……っ」
 シャルの細い指が本来挿入すべき場所ではない器官に侵入する。敏感な粘膜を撫でる快楽にシャルは息を乱し、口の端から銀の糸を落とした。ゆっくりと挿入し、一気に指を引き抜く。本能的な排泄の快感に淫靡なものが混ざり、真っ白だったシャルの頬が薄紅色に高揚する。
「ねぇ、引田さん。こんなえっちな子を買うなんて、ホント変態なんだね」
 シャルは引田の耳元で囁く。熱を持った言葉が耳から脳髄へいやらしいもので染め上げる。
「見ててね、僕のえっちなところ」
 シャルは挿入した指でいいところをぐりぐりと刺激する。肌を走る電気に肌を粟立たせ、膝立ちの脚をがくがくと震わせた。とめどなく言葉にならない声を上げて快楽に身もだえする。上気した顔が、下がる眉が、解けるように閉じられた目が、閉じられない小さな口が、すべてが美しく、耐え切れず引田はシャルを抱き寄せて厚い舌を開いた口にねじ込んだ。
「っ……!?」
 刹那、シャルは立ち上がっていない中心からどろりと白濁した液を流した。絶頂を向かえた身体は小刻みに震え、息が規則的に止まる。
 シャルは涙を流して引田の頬を平手で叩いた。
「触らないでって言ったよね」
 シャルは屈辱に泣いていた。否、恐怖に震えていた。愛されるということは終わりがあるということ。どんなに愛の言葉を囁かれても飽きたら売買される。一緒に生クリームと煮ても、バニラが無味だと気付かれたら取り除かれて捨てられる。モノとして扱われた方がマシだった。もし愛されたら……離れることが惜しくなる。
「引田さん。僕に惚れたなんて言わないで。僕は愛なんて要らない」
「それは約束できないな」
 引田はシャルの頭を撫でると。ベッドサイドのティッシュをよこした。
「引田さん、一緒に寝てあげるよ。こんなにベッドが広いんだから」
 シーツの汚れを拭ったシャルは有無を言わさず引田の横に滑り込んだ。
「抱きしめちゃダメだからね。一緒に寝るだけ。じゃあ僕疲れたからおやすみ」
 引田の少し速い鼓動を背中に聞きながら、シャルは眠りについた。



お読み頂きありがとうございます。
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