140字SS 096~100

096 Sirius

 闇夜にひとつ、シリウスが光る。彼は遠く、僕には辿りつけないほど遠くにいて、もしかしたらもう死んでいるのかもしれない。
 鼻先が冷たくて痛い。
 僕が見ているのは幼い彼の姿。今、彼はどんな姿をしているの?
 ねえ、明日も光っていてくれる?
 僕の声も、届いているかい?


097 涙の色

 ここは青、ここはマゼンタ、ここは紫。
 あなたは繊細に感じ取る。
 人々の身を知る雨を受けて、雫の数だけ花をつける。
 涙にもいろんな色があるものね。
 私が今泣いたら、あなたはどんな色の花を咲かせるのかしら?
 抜け殻になった白い紫陽花を、部屋の隅にそっと飾った。


098 虫刺され

 気づかなかったら何も思わないのに、見つけてしまったら気になってしょうがない。
 あなたの嘘にどうして気づいてしまったのだろう。
 首筋に隠れた嘘も、他人の香水の香りも、気付いたときには痒くてしょうがなかった。
 少し腫れた右腕に軟膏を塗って、貴方への殺意を丸めた新聞紙に込めて。


099 月兎

 枕が濡れる夜。私はベッドの横のカーテンを全て開けた。
 潤んで歪む月に帰りたい。ここに私の居場所はあるのかしら。
 優しい光に照らされて、睫毛の先の雫が揺れるのが見えた。
「ここにいていいよ」
 光の先にいるうさぎが跳ねて、私に頬ずりするの。
 目を閉じて、今日の私とさよならするわ。
 ありがとう。


100 贅沢

「のり弁当。今日はタルタル付きで」
「はいよー!おにいさん、今日何かいいことあったんかい?」
  笑顔が素敵ないつもの弁当屋のおばさんに、ちょっとね、なんてこみ上げる笑みをこらえて小銭を渡す。
 帰ったら早速あの子に電話しよう。
 そして言うんだ、デートに行きませんか?って。




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