青嵐吹くときに君は微笑む 04

「キャー! リーダー! リーダーのビジュ仕上がってる!!! ねえ、相原くんすごいよ! 美しいよ! 尊いよ!」
 えー、無言とは言いましたが、列を抜けて売り場が見えると酒本先輩のテンションがクソが付くほどのアイドルオタクである俺の妹を彷彿とさせる上がりっぷりを見せております。同一人物ですよね? 確認しますが。
「どれ買おう……いや、全部は買うよ? あーでも予算がー。今年のTシャツ可愛いし……はっ、参戦するんだからペンラ買わなきゃ」
 忙しなく興奮の言葉を吐き出す先輩を見ていると、やっぱりこの人は可愛いのだと思ってしまう。木の実を前にした小動物的な可愛さだ。
 俺は妹の滴から預かったメモと別財布を取り出す。えっと、どこで買えばいいんだ?
「えっとね、相原君。ブースごとに買えるグッズが違うから気をつけてね。赤の矢印で区切られてるゾーンまでは同じものが買えるから好きなところに並んでね。じゃ、出口待ち合わせで!」
 早口で説明すると、先輩は比較的人が少なそうな列に並び始めた。俺も付いて隣の列に並んでみる。
 滴のおつかいメモの量もすごかったが、横を見ると先輩もものすごく買っていた。アイドルの経済効果怖い。
 計三回並んで指定されたグッズを全て買い終えた。先輩も鞄からポスターが二本出ていてご満悦の様子だ。漫画ならば顔の周りに花が飛んでいる。至福の時という顔だ。
「さて、コンサート行きましょうか、相原君!」
 初めての世界の扉が開く。思いがけない形で、思いがけない人と共に。

「名古屋調子はどうだー!!!」
「いえーい!!!」
「今から俺ら五人がお前らを幸せにしてやるよ」
「きゃああああああ」
 えー、すごいです。すごい盛り上がりです。何がすごいって、コンサート前に流れるちょっとしたビデオが流れた時点で黄色い悲鳴でドームの天井が張り裂けそうになっていました。そして横を見ると、酒本先輩が号泣していました。苦しかったものを全て洗い流すような涙に、俺は安心と苦しさで身が引き裂かれそうでした。彼らが登場すると、テレビでしか見たこと無かった人たちが実在していることに俺は魔法にかかったような気持ちになりました。彼らの一挙一動に歓声が上がります。驚きすぎで丁寧口調でレポートするほど圧倒されています。現場からのレポートは以上です。
 俺たちの座席は一階席三塁側の後ろの方だった。薄暗いドームの中に眩しい月の如く照らされる五人の姿。曲に合わせてなんとなくペンライトを振っていたが、いつしか夢中になって彼らの姿を見ていた。
 大画面に映し出される彼らの生の姿に俺は言葉を失う。どんな言葉を使っても言い表せないほどの「かっこよさ」が、そこにはあって、エンターテイメントという魔法に俺たちはかかっている。なんだ、これは。
 そのとき、メンバー同士がなんと、キスをした。頬にとか、額に、とかではなく、向かい合って唇に。先程までとは違う色の歓声が上がる。確認するが彼らは男性同士だ。
酒本先輩の言葉を思い出す。
『――男の人なの』
 アイドル業界ではよくあることなのだろうか? いや、俺が知らないだけでこの広い世の中ではよくあることなのだろうか。
 俺は酒本先輩とキス、できるだろうか。
 続いてポップチューンを彼らが歌っている間、俺は酒本先輩の顔をそっと盗み見た。
 刹那、体中を鮮烈な刺激が駆け巡る。足の先から心臓まで。
 俺の求めていた酒本渚がそこにはいた。満面の、花が咲くような輝かしく懐かしい笑み。
「先輩、俺に、もう一度微笑んでください」
 ステージの爆音と黄色い歓声で誰にも聞こえないつぶやきは、俺のせめてもの願いだった。



お読み頂きありがとうございます。
コンサートシーンをいかにぼかすかにかけました。ご本人様ごめんなさい。
でも彼らがいつもコンサートで言う「今から幸せにしてやるよ」という言葉は創作の中で僕も大切にしています。
拍手をぽちっとしてくださると作者が喜びます。

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