青嵐吹くときに君は微笑む 09

「お兄ちゃん何着ていこう!? 甘めのワンピースだと狙いすぎ? でもズボンじゃ可愛くないし……うーん、もう分かんないよう!」
 今日は酒本邸訪問の次の土曜日。LINEで酒本先輩とのデートを取りつけた妹の滴は朝から騒がしかった。
 そして俺はインフルエンザで寝こんでいてすっかり忘れていたが、酒本先輩は男性とお付き合いするタイプの人間だった。いや、男女両方いける可能性もあるが、そうじゃなかった場合、滴は問答無用でフラれるわけだ。これを言い出すか言い出さないかは非常に迷うところがあるが、先輩のプライバシーを勝手に漏らすのも人としてどうかと思うので言わない。言わないけど、俺の可愛い妹は非常に勝算の低いデートをするわけである。
「お兄ちゃんだったらどんな服の女の子とデートしたい?」
「とりあえずあったかくして行け、今日は冷えるから」
「お洒落は我慢なのー! お兄ちゃんのバカ!」
 そもそも俺の意見など聞くつもりはなく一人で騒いでいるだけなのだ。
 が、俺も落ち着かないものがある。
 そもそも酒本先輩は女性と二人で行動しても平気なのだろうか? あんなに怖がっていたのに。どんなデートになるんだ?
「あーもうこんな時間! 行ってきます!」
 嵐のように騒がしい妹の背中を見送った。さて、どうなることやら。

 スマートフォンが振動してメッセージが届いたことを俺に伝える。
 居間のこたつに潜りながら開くと、酒本先輩からだった。
「滴ちゃんはそろそろ家を出たかな? まだ居るなら今日は冷えるからあったかくしておいでと伝えてください」
 いちいち律儀な先輩である。きっと張り切っている本人には面と向かって言えないのだろう。こういうところが先輩の優しいところだ。
「滴ならさっき家を出ました。あったかくするようには伝えておきました。今日は妹をよろしくお願いします」
 先輩からグッドマークのスタンプが送られてくる。うさぎの可愛らしいイラストだ。
 酒本先輩と滴がデート。悪くはない組み合わせだとは思う。趣味も合うし、可愛らしいし。でも、この胸のざわめきはなんだろう。
 こたつの上から一つみかんを取って皮をむく。白い筋を黙々と取りながら考える。
 先週の怯えた先輩の顔。女性が苦手とか? 男の人が好きな人って大体そうなの?
 答えの出ない問いを嗤うようにスマートフォンが震える。今度は滴からだった。
「渚先輩と電車乗ったよ。先輩めっちゃイケメンで惚れ直しちゃった。だいぶ前から待っててくれたみたいで申し訳ないな。楽しんでくるね」
 はいはい、と適当にクマのスタンプを送りつけて、みかんを口に含む。体温で温くなったそれはさわやかなのに甘くて、まるで酒本先輩みたいな香りがした。先輩は香水をつけているのだろうか。
「酒本先輩って香水つけてんの?」
 おもむろに滴にメッセージを飛ばす。数秒後「つけてるって言ってる」と返信。
「シトラス系好きなの?」
「好きだって」
「みかんは白い筋取る派?」
「取らないって。お兄ちゃんさっきからうるさい」
 ハンマーで殴り潰されるスタンプが届く。なんと物騒な。
 今頃、滴と酒本先輩はうまく話せているのだろうか。胸の真ん中が焦がれるようなこの感覚は、恐らく羨ましいという感情なのだろう。



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