青嵐吹くときに君は微笑む 12

 やってきましたクリスマスイブ。滴は「今日はアイドルのどの人が誕生日でー」なんて言っているが、世間一般ではイエスキリストの誕生日前日である。そしてこの国日本ではクリスマスは恋人たちが集う日になっている。世界でかなりの人が信仰している宗教の神みたいな人の誕生日にそれはアリなのだろうか。ともかく、恋人たちが集う大切な日に酒本先輩と共に過ごせることが嬉しくて俺は浮かれていた。
「パーティーって何着ていけばいいんだろう」
「家だし、私服?」
「じゃあ室内では脱げる上着を着ていこう」
 俺たち兄妹はこんなに仲が良かったのだろうか。先輩とまた関わるようになってから滴と話すことが増えた気がする。しかし滴は知らない。滴は俺の恋敵だ。俺が勝手にそう思っているだけだけれど。
 家から出ると冷たい風が頬を刺した。空は鈍い銀色に光って、今にも雪が降りそうなくらいだ。
「うひー、寒いね、お兄ちゃん」
「そうだな」
 手をモッズコートのポケットにつっこんで、マフラーに顎を埋めた。滴も長い髪をふたつに結って青いスヌードを首に巻いている。
 駅前のスーパーでサンタクロースの恰好をしてクリスマスケーキを売る少女が目に入った。サンタクロースなのに、ミニスカート。この寒空で。ミニスカサンタは南半球だけにしてあげたいほど見ているのが寒い。
「ミニスカサンタを生み出した現代の煩悩を打ち払いたい」
「お兄ちゃん何言っているの。すけべ」
 そういう意図じゃない、と滴の冷たい頬をつねった。
 ミニスカサンタの少女は短い髪を揺らして、俺たちに手を振った。カップルだとでも思われたのだろうか。滴とだけはないな。
 逆に酒本先輩がミニスカサンタを着たらどうだろうか。
「やっぱり俺の煩悩も打ち払いたい」
「お兄ちゃん、やっぱりすけべじゃん」
 可愛いものは可愛い。可愛いは正義です。

 先輩のマンションに着くと、部屋中にクリスマスの飾りがされていた。キャンドルが溶ける甘い匂いと、美味しい食べ物の芳しさ。きらきら揺らめく炎に俺たちは最高潮に浮かれていた。
「零くん、滴ちゃん、いらっしゃい」
 エプロン姿の酒本先輩は今日も柔和な笑みで俺たちを迎えてくれた。BGMはもちろんアイドル曲だ。
「渚先輩、お邪魔します。今日のご飯は何ですか?」
「こら、滴」
 真っ先にご飯のことを訊く食いしん坊な妹に少し呆れる。が、酒本先輩は口を押えてころころ笑っていた。
「ごめん、滴ちゃんがアイツみたいなこと言うから。今日はローストビーフ作ったから楽しみにしていてね」
 やったー、と滴は喜んでいたが、先輩の言う「アイツ」って誰だろう。
「ご飯できるまでもう少しかかるから、おこたでゆっくりしていてね」
「あっ、私手伝います」
「そう? じゃあお皿並べてくれる?」
 先輩の横に率先して並ぶ滴の姿を見ていると、本当に先輩のことが好きなのだと背中で分かる。お似合いだな。俺なんかよりずっと。何もできなかった俺なんかより、酒本渚という人物と真正面から向き合おうとしている妹の方が。でも先輩が滴に恋をする日は来るのだろうか。
 そんな日、来なきゃいいのに。
「零くん、そろそろ食べよ」
 はっとして顔を上げると、酒本先輩は俺の横にしゃがんで目線を合わせてくれていた。
「暗い顔してたけど、何かあった?」
 小さく動く桜色の唇。
 引き寄せられる。酒本渚という人物に。
 そして、やはり先輩はシトラスの味がした。
「れ、零くん?」
 酒本先輩は唇を指先で押さえた。
 俺はしてしまったことへの謝罪の言葉を探す。頭を掻いて、無意味な声をあげて。
「謝らないで。謝らなくていいから」
 酒本先輩は俺の手を握った。
「せんぱーい、おにーちゃーん。何してるの、食べるよー?」
「ごめん、今行くね」
 首筋まで紅く染めた先輩に、俺はしばらく動けなくなった。



お読み頂きありがとうございます。
零くんのすけべ。
拍手をぽちっとしてくださると作者が喜びます。

ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ



←前のページ 目次 次のページ→