青嵐吹くときに君は微笑む 14

「レズ? ホモ? どういうこと?」
 滴は酒本先輩と扇田さんを交互に見て、それから俺に戸惑う瞳で助けを求めた。
「あっちゃー。もしかしてナギちゃん言ってなかったの? ごめんね」
「いいよ。いつかは言わなきゃ、って思っていたし」
 酒本先輩は息を整えると、俺たちの方に向き直った。
「僕は同性愛者。男の人が恋愛対象なの。滴ちゃんが僕のこと好きだって知ってた。知っていたから言えなかった。本当にごめんなさい。それでね、零くん」
――零くんのことが好きなの。

「滴、しずく! 待てってば」
 コートも着ないで飛び出した妹を追いかけて俺は走った。真っ暗な空から冷たい雪が静かに降りてくる。きっと明日には一面を白に染めるだろう。
 駅前のロータリーで滴の冷え切った細い手首を掴む。
 立ち止った滴は小さな声で言った。
「お兄ちゃんは知ってたの?」
 俺は後ろから抱きしめて言う。
「うん、知ってた。再会したあの日から」
「なんで、教えてくれなかったの? 私言ったよね、渚先輩のこと好きだって」
「言えるわけないだろ。人のプライバシーを」
「そう、そうだよね」
 滴は、声をあげて泣いた。身体が引き裂かれるような、雪の静かさを恨むような声で。
「なんで私じゃないのよ。なんで先輩は私を選んでくれなかったの? 性別でごめんなさいされるなんて思わないじゃない……私に勝ち目なんて、ひとつもないじゃない」
「お兄ちゃんさ、酒本先輩のこと好きだよ」
「知ってるよ」
「それも、多分高校一年生で初めて出会ったときから」
「何それ……敵うわけないじゃん」
 ふふ、と滴は涙を拭って笑った。
「お兄ちゃんは渚先輩と付き合うの?」
「うん。先輩がやっぱりなしって言っても、いつまでも待ってる」
「何それ、無駄にカッコよくてムカつく」
 滴は俺の頬をつねって言った。
――渚先輩を幸せにしなかったら許さないから。

「ただいま」
 先輩の家に戻ると、扇田さんが「よっ、青春兄妹」とはやし立ててきたが、原因が自分であることを忘れているのだろうか。いや、笑うことでしか救われないと知っているんだ。
「おかえりなさい、零くん、滴ちゃん。ケーキあるから食べようか」
 ダイニングテーブルの真ん中にはチョコレートのロールケーキ。柊の葉が飾られたブッシュドノエルだ。
「これはあたしからのおみやげね。うちのスーパーの商品の中でも一番高いやつだから」
 扇田さんは、ナギちゃんにはいつも美味しいご飯食べさせてもらっているから、と笑った。
「あっ、やっぱりナギちゃん手作りの方が良かった?」
「それは渚先輩が大変過ぎですから」
「おっ、しずくっち、分かってるね」
 女の子は強い。失恋してもこうやってすぐ笑う。いや、たくさん泣いたから笑えるのだ。感情は出すことで整理できる。その勇気を持った人だけが笑えるんだ。
 あのコンサートの日、泣いた酒本渚は心の整理ができたのだろうか。
「酒本渚先輩、俺と、付き合ってください」
 先輩の笑顔を見たい。これは鮮烈な一目惚れ。そして願いは、今、叶った。



お読み頂きありがとうございます。
よかったねぇ零くん(´;ω;`)ウゥゥ
ここで終わりではないのですけどね、ふふふ。
拍手をぽちっとしてくださると作者が喜びます。

ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ



←前のページ 目次 次のページ→