青嵐吹くときに君は微笑む 15

「本当に泊まっていっていいんですか?」
「うん、こんな雪だし、クリスマスを一人で過ごすのは寂しいから」
 目を伏せながら食器を洗っている先輩は言った。
 彼の睫毛の先が小さく揺れて、食器を拭く手が気付いたら止まっていた。
 本当にこの人と両想いになれたんだ。そう思うだけで、大声で叫びたいような、身体全体を暖かな毛布でくるまれたような心地がした。
「お兄ちゃんのどこがいいんだろ。あんなもっさい万年ベンチ男なのに」
「うんうん、男のどこがいいんだろ。柔らかなおっぱいの素晴らしさが分からないのかね」
「そりゃ、優しいところはあるけど、絶対詐欺とか遭うから。お兄ちゃんバカだしヘタレだし」
「バカ男なんて滅べばいいのよ。美少女さえいればあたしは幸せなの」
 リビングから呪詛怨念の塊談義が聴こえてくる。しかも微妙に嚙み合っていない。こたつの魔力から逃れられない彼女たちはうだうだと机に頬を乗せて語り合っていた。
「ごめんね、いつにもまして華ちゃんがバカ言ってて」
「大丈夫です。俺の妹も酷いんで」
 顔を見合わせてふふ、と笑うと、自然と唇が重なっていた。生クリームとチョコレートの甘い味。
「あーナギちゃん、ちゅーしてるー! これだからリア充は! アベックなりたて男共はさっさと皿洗い終わらせてベッドでギシアンしてろ、バーカバーカ!」
「お兄ちゃんのバカー! 私だってしたいのにぃ!」
 こたつ方面から大ブーイングが飛んでくる。見られていたことを思い出して耳が熱くなった。
 扇田さんが妹に「じゃあ、あたしとちゅーする?」と訊いてあっけなく断られていたところで、俺たち四人、みんな笑っていた。

「二回目ですね、ここで寝るの」
「そうだね。びっくりしたよ、急に倒れるんだもん」
「その節は大変ご迷惑おかけしました」
 はい、ここでまるで平常心かのように会話をしておりますが、相原零、非常にどぎまぎしております。着替えがないからとパンツと肌着姿になっておりますが、寒さが正直分かりません。でも指先や耳先が冷たいのは確かで。それでその。
「零くん、なんで、正座で股押さえてるの?」
 だって、男の子だもの。
「まあ、聞かなくても分かるけどね。零くん」
 先輩の大きな瞳がゆぅらりとキャンドルの炎できらめく。先輩が俺を抱きしめ、耳から頭の真ん中へ言葉を届ける。
――名前で呼んで。
「なぎさ、先輩」
「うん」
「渚先輩、好きです」
「僕もだよ、零くん」
 唇を合わせて、柔らかなベッドに倒れ込む。
「触れてよ、零くん」
 先輩の身体は酷く冷えていて、俺の熱が届けばいいのにと願った。
 その先は、意識がふわふわして、心が熱くて、赤子に戻ったような安心感の中で眠った。この記憶は、俺と渚だけが共有する大切なタカラモノにしようと思う。



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