青嵐吹くときに君は微笑む 17

「よう、ナギ。元気そうじゃねーか」
 その男は覇気に満ちた、長身の、鬼のような身体つきの男だった。逆立った髪とえらの張った顔。強靭な肉体がスーツに包まれていることが分かる。そして、微かに煙草の苦い香りがした。
「敦(あつし)さん。おはようございます」
 渚先輩は敦と呼んだ男から目をそらす。何か言いたそうで、何も言えない。そんな顔だ。
「今月の生活費、それとちょっとしたクリスマスプレゼントだ」
 膨らんだ紙袋と、赤い不織布に包まれた箱を彼は差し出す。
「ありがとうございます。でも、プレゼントは受け取れません。僕たち、もう終わったんでしょ?」
「なんだよ、まだ気にしてるのか。相変わらず女々しい奴だな。ありがたく受け取って――」
「あのっ」
 滴が声を上げる。
「渚先輩とはどのようなご関係で?」
 滴の声は震えていた。厭味ったらしい男に立ち向かう。
「俺はナギの親父さんの顧問弁護士で、後見人だ。遺産の中から毎月の生活費を渡してる」
「それだけじゃ、ないですよね」
「ああ、そうだな。でも、君には関係ないだろ?」
 すごむ男に滴は、言葉を探して、でも、見つけられずにいた。
「敦さん、関係あるよ。そこのぼけっと突っ立ってるだけのクソ男、ナギちゃんの彼氏だから」
 扇田さん、頼むからもう少し言葉を選んでくれ。でも何も言えずに突っ立っていたのは事実だ。
 俺は一歩前に出て、渚先輩の震える肩を抱いた。
「あなたは、渚先輩の元カレですね? はじめまして、相原零、十七歳。酒本渚の彼氏です」
 ふうん、と敦は俺を値踏みするように足先から脳天まで見た。正直恐ろしかった。身長は俺と変わらないはずなのに幾分高く大きく感じて、屈強な肉体に、何より冷たい瞳が俺の腹をずたずたに切り裂くようで、睨み返すのが精一杯だった。
「彼氏、ね。ナギ、お前また『僕は可哀想な子なんです』って言って誰かに寄生するんだ。ホント、何も変わらないな。吐き気がするよ」
「俺はそんなんじゃ……」
 今朝、見た夢を思い出した。俺は渚先輩を救いたい。そう思うのは間違いなのか?
「いい加減にして。もう、帰ってよ」
 渚先輩の声は消え入るようだった。
「そうだな、朝食の邪魔しちゃったようだし、そろそろ退散するよ。また、来月な」
 そう言うと鬼のような男は革靴を履いて帰っていった。

「なんなの、あれ! もーお兄ちゃんのぽんこつ! なんで言い返せないのさ! バカ! 今すぐここから積もった雪にダイブしろ!」
 積雪三センチでそれをすると死にます。
 滴は叫びながら大粒の涙を零していた。「渚先輩を救いたい」そう願っていたのは滴も同じだったから。
 俺は渚先輩に同情しているのか? この恋心の正体はなんだ? 弱いところをみせてくれて、支えたいと思って、触れたいと思った。それはいけないことなのか?
 ぐるぐると気持ちの悪いものが内側から内臓を食い荒らしているようだった。



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