青嵐吹くときに君は微笑む 18

 朝食は結局近くの喫茶店でモーニングを食べていた。コーヒー一杯分の値段でトーストとゆで卵がついてくる。さすが喫茶店王国だ。
「あーもーむかつくから小倉も付ける!」
「あたしも!」
 ガールズはぶりぶり怒りながらトーストにマーガリンとプラス百五十円で小倉あんをつけてかぶりついていた。
「渚先輩、食べられますか」
「あっ、うん。大丈夫。ごめんね、ご飯作れなくて」
 真っ青な顔で俯く先輩の手を俺は握った。嫌な汗で濡れた先輩の手は、いつもより小さく感じた。
 渚先輩は小さな口でもそもそとトーストをかじる。そうしては意識がどこかへ行ってしまったように止まり、手を机に下ろしていた。俺も喉の奥まで何かが詰まったような心地で何も食べる気がしなかった。
「もー野郎共しっかりしろ! 戦いたくば飯を食え!」
「そうだよお兄ちゃん、今こそ食べよ! 店員さん、トーストおかわり! あとサラダも!」
「あたしもおかわり!」
 彼女たちのパワーは何処から来ているのだろうか。俺たちは、なんて弱い。
「俺は、先輩のことを守りたい。それってエゴなのか?」
 肺から息が漏れだすように言葉が出る。
「僕は、零くんに出会えてよかったと思う。でも利用してたのかな。寂しいからってとりついて、それって――」
「あーもークソ男共!」
 扇田さんが机を叩いて立ち上がる。
「そんなうじうじしてないで、あのショタコンジジイに言ってやればいいんだよ。『僕たちは好きだから一緒に居るんだ』って。そこのうじ男その一、愛しい人を守りたいと思うのは自然な感情! そしてうじ男その二、寂しくない人なんていないの! 寄り添って生きていくのことの何がおかしいの?」
 以上! と叫んで扇田さんは座り直してゆで卵をかじる。彼女の言葉は厳しいようで心を解かすような温かさにあふれていた。今にも泣きそうだと思っていると、渚先輩が鼻をすすって涙を落としていた。
「僕、敦さんに言われたんだ。めそめそして鬱陶しい。可哀想ぶって悲劇のヒロイン気取りか。って。僕はただ、愛してくれる人が欲しかった。父も母もいなくなって、どうしたらいいのか分からなかった。間違った恋愛しかできなかったんだ。だからね、怖いの。零くんは、今は好きって言ってくれてるけど、いつかまた嫌われたら……」
「馬鹿なの?」
 今度は滴だった。
「嫌われる前提で恋愛するなんて私はしない。もう恋人になれないって痛いほど感じて、悔しくて、悲しかったけど、私は渚先輩に嫌われる前提で恋してませんでしたから。先輩は元カレのことを引きずってるんですよね? はい、お兄ちゃん続き」
 滴に人差し指を向けられる。俺は深く息を吸った。
「俺は渚先輩のこと、大好きです! 俺がいつまでも先輩のこと口説き続けます。先輩が悲しいときも嬉しいときも一緒にいます。俺がそうしたいから、させてください」
 渚先輩は狭い喫茶店のボックス席、俺の腕の中で泣き続けた。俺の幼い決意。ちゃんと受け取ってください。



お読み頂きありがとうございます。
愛知の朝食といえば小倉トーストですよ(偏見)美味しいですよね。
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