青嵐吹くときに君は微笑む 20

 渚先輩が身体を固くするのが分かった。先輩は静かにマグカップを下ろす。
「我が母上はお兄ちゃんの『彼女』に会いたがっています。さて、どうしましょう」
 どうって……と俺は考えを巡らせた。正直に両親に打ち明けて、受け入れてもらえるだろうか。
「僕は、零くんと滴ちゃんのご両親なら、仲良くしたい。でも、怖いよ。また、拒絶されるのが」
 小さく、ゆっくりと絞り出すように紡がれた言葉。冗談なんて言っていられないという現実が俺たちの頭を殴りつけた。
「僕のお母さんは僕がゲイだと知って酷いことをした。それで、僕の家族はいなくなってしまった。零くんにそんな思いはさせられない。でも――」
 でも、いつかは話さないといけないから。
 嗚咽混じりにそう言った先輩を、どうしたら救えるのか、分からない。
 ただ抱きしめて、先輩が落ちつくのを待った。根拠のない「大丈夫」を繰り返して。
「お兄ちゃんはどうしたいの?」
 滴が真っ直ぐな瞳で問う。
「俺は、正直に言うと、怖い。母さんを泣かせたり、父さんに出てけって言われたりするかもって思うと、やっぱり怖いよ。だけど、俺たちの関係は恥ずべきことなのか? そりゃまあ、結婚も今はできないし、孫の顔は当然見せられないし、そんな先のことは分からないけれど、今、好きだと思うのはおかしいのか? でも、先輩が怖いと言うなら、ずっと黙っていたっていい。先輩をこれ以上傷つけたりはしたくないから」
 一口、ジャムを溶かした紅茶を口にする。こんなに人生甘ければいいのに。塩辛くてしょうがない。
「私は、話してもいいと思う。お兄ちゃんにも話したけど、意外とママはそういうのに寛容だし。パパは知らないけどね。私が楽観視しすぎなのかな。だって、おかしいよ。好きな人の性別がどうこうで悩むのって」
 そう簡単にいうなよ、と俺は溜め息を吐いた。
 会議は詰んだかのように思われた、そのとき。
「あたしが彼女のフリをすれば?」
 そう提案したのは、扇田華だった。
「あたしがこのクソ男の彼女のフリをして、ナギも友達として一緒に友達としてクソ男の両親に挨拶する。それでナギとご両親が仲良くなれば万々歳。あたしの両親に会いたがっても今は会えないから問題ない。それでどう?」
 どう、と言われましても。
「華ちゃんはそれでいいの?」
 渚先輩が問う。
「あたしさ、どうせ男なんて好きにならないし、どうせ親にも分かってもらえないんだろうなって家を出たんだ。このクソ男のことは絶対に好きにならないけど、滴ちゃんやナギちゃんにはお世話になってるし、いいよ。それにわざわざ『彼女です』なんて言わない。あくまで一緒に家に行くだけ。黙っててもこの偏った世界では男女が一緒にいるだけでカップルに見られんの。嘘はつかないよ。黙ってるだけ」
 偏った世の中。世界の殆どの人は男女でカップルになる。それは変えられない事実で、そういうものなんだ、って幼いころから刷り込まれた常識。子孫を残すためのシステム。それから外れるというのは、どうしてこんなにも生きにくいのだろう。
「じゃあ、みんなで行こうか」
 滴の一言で、会議は一時終了。甘酸っぱいジャムのスコーンを食べながら、アイドル話をして今日を過ごした。でも、渚先輩は、意識が虚ろになることが多かった。



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偏った世の中ギルティ。
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