骨になるまで 04

 高校三年、十八の夏、私たちは姉妹で、双子で、きっとそれ以上の関係だった。どこまでが双子のすることで、どこからが双子のしないことなのかは幼い私たちには分からない。
「おねえちゃぁん」
 家で、学校で、部室で、帰り道で。人目を盗んでは私たちは求め合った。おねえちゃんは私に触れて、身体を擦り合わせて、体液を交換した。おねえちゃんの指が入ってくると、ほっそりとしたおねえちゃんが私を押し開いて優しく執拗におなかの内側を圧迫した。尿意にも似た欲求に溶かされて、私とおねえちゃんはまたひとつの細胞に戻る。私たちは同じ存在なのだから。そう、信じていたのに。
 私がおねえちゃんの乳房に触れようとすると、おねえちゃんは手で制した。おねえちゃんの中に入ろうとすると「あやめが気持ちよくなればいいから」と息が詰まるように苦笑した。なんで? おねえちゃんも気持ちよくなって欲しいよ。おねえちゃんも私のものになって。
 お母さんの帰りが遅い日、おねえちゃんと夕食を作っていた。
「おねえちゃん、おねえちゃんは私に触れられるの嫌?」
 包丁を持つおねえちゃんの手が止まる。
「嫌……じゃないよ。ただあやめに触れたいだけ」
「嘘、いつも嫌がるじゃん。そんなに私へたくそかな」
 そうじゃなくて、とおねえちゃんは目を泳がせた。焼けるような夕日が部屋を赤く染める。
「あやめ、聞いてくれる?」
 その声はおねえちゃんじゃなかった。
「わたし……ぼくは、男だ。確証は持てなかったけど、あやめに触れて分かった。ぼくは産まれたときからどうしようもなく男で、間違った身体で産まれてきた。漠然と、何が証拠なのか分からないけれどそう思うんだ。ぼくがそう思うのが証拠とも言える。あやめを愛するぼくは、男としてあやめのことを愛してる」
 理解できなかった。私たちは同じ細胞から産まれた同じ姉妹じゃないのか。
「おねえちゃんは、私のおねえちゃんだよ。愛するのに男として、とか、女として、とかあるの?」
「あるんだよ」とおねえちゃんは断言した。
「おねえちゃんのこと、私はおねえちゃんだから好きなの。私と同じだから。私の同胞だから。おねえちゃんだから。おねえちゃんだからなのに」
「あやめには分からないよ」
 おねえちゃんの声は低く、悲痛だった。
「分かりたいよ。分かるように説明してよ。なんで? 私たちが双子として産まれたことが間違いだったっていうの?」
「そうだよ。一卵性双生児は同じ『身体の性別』でしか産まれない」
 私はおねえちゃんに掴みかかっていた。私と同じじゃないなんて許せない。私と一緒に産まれてきたくなかった? 包丁が床にカラリと落ちて、私は狭いキッチンでおねえちゃんに馬乗りになっていた。何度も噛み付くようにキスをして、妄言を吐く口をもぎ取ってやりたかった。
「私は私としてお姉ちゃんが好きだよ。それじゃいけないの? 女が女を好きになったって何もおかしくない。おねえちゃんはそれが許せないから自分が男だとか言うの?」
「違う!」
 おねえちゃんが声を荒げたのはこれが初めてだった。
「ぼくは、この身体が許せないんだ。高い声も、膨らんだ胸も、張った腰も、月経も。全部全部気持ち悪いんだ。自分のことを『わたし』と言うことも、制服のスカートも、女として見られることも全部。全部いや!」
 おねえちゃんは包丁を手に取ると、左の乳房の付け根に刃を立てた。
「おねえちゃんっ!」
 わたしは包丁を掴んだ。刃が手のひらを裂いて赤いものがとろとろと流れる。おねえちゃんと同じ血。おねえちゃんと、おねえちゃんと……
 しのぶは驚いて包丁に込めた力を抜いた。私たちで汚れた包丁はぬらぬらと赤く光っていた。
「あやめ、ごめん、痛かっただろ」
「おねえちゃんが死んだら、私も死ぬの。それくらい、私はおねえちゃんでいっぱいなの。おねえちゃんもそうでしょ? おねえちゃんも私でいっぱいになって」
 おねえちゃんは、ごめんなさい、ごめんなさい、と私を抱きしめて泣いた。おねえちゃんは私の双子の姉だった。でも本当は他人以上に離れていて、私とは違う性を生きていた。こんなにも近くて遠いなら他人以上になれるよね。だって――双子だもの。


お読みいただきありがとうございました。
余計なことは語りません。どうか最後までお楽しみください。
それでは最終話は明日の21時です。よろしくお願いいたします。読みましたの拍手もお待ちしております。

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