蒼血のアフェクシオン Chapter00 蒼き血汐 01

 夜更け、加賀睦樹(かがむつき)はコトリ、とヒールの先がコンクリートの床に降り立つ音で目を覚ました。
 月明かりだけが照らすだけの狭いアパートの一室。ダイニングテーブルの前に少女、いや少年が立っている。フリルをたっぷりとあしらいパニエでふんわりと膨らんだ白いワンピースを身に纏い、ところどころ赤や「蒼」の血で汚れていた。
 青白い肌に引かれた紅いルージュが妖艶に光って、中性的な美しさに耳の大きなイヤホンで無機質さが加わり、まるで等身大のビスクドールを見ているかのようだった。
 睦樹は身体を起こすとベッドに腰掛け、少年を両腕に招く。
 抱きしめると少年の若草色の髪から錆びた鉄のような臭いがした。少年を咎めているのではない。人間の内部にある理、未来の書かれた系譜が定めたことだ。そしてこの世界の長、北辰の巫女が詠んだ未来は絶対。この少年にも、睦樹にも覆すことはできない。そう決まっているのだ。
 少年が着ていたドレスを脱がすと、全身に擦り傷や痣、銃創ができていた。その傷跡を丁寧に舌で舐める。唇で柔らかく触れる。するとその肌には一筋の傷もなくなった。加賀睦樹が行使する魔法のひとつだ。傷から滴る蒼い血液を味わう度に、少年がどのような戦いをしてきたのか脳裏に鮮明に浮かんだ。
 睦樹は悲しくなった。
「何故銃弾を避けなかった?」
 少年は何も答えず、自嘲的に口角を上げた。
「なんでわざと傷付く」
 長い沈黙が流れる。その間も全身にできた傷を睦樹は治してゆく。
「ねぇ、睦樹」
 変声前のようなアルト声で言う少年に、何、と向き直ると少年にベッドへ引き倒された。
「睦樹、私を抱いて頂戴よ」
 少年は空虚な瞳で微笑んだ。ああ、まだ傷付き足りないのか。
「……分かった」
 加賀睦樹は少年の肩を抱き寄せ、ゆっくりと唇を合わせた。彼にはもうか弱い少女のようなこの少年が傷付くことが耐えられない。
 ゆっくりとした動作で唇を割り、舌を絡ませ合った。静かな闇夜の中で厭らしい水音が響く。
 加賀睦樹は少年の記憶を手繰り寄せる。
 少年――羽鳥拓磨の記憶を。


***


 その日は春の麗らかな日で、桜の花びらが舞う音がやけに煩い日だった。
 何もかもが気怠くて、日が昇ることすら恨めしくて。ただベッドに沈みこんで真っ白な天井を眺めていた。
 どれだけの時が経ったのだろうか。少し部屋の空気がひんやりとしてきた頃、不意にイヤホンに伝令のコール音がした。
「特務魔法士羽鳥拓磨、本日1650、ポイント175にて違法薬物取引が行われることが予知されました。対象拘束及び殲滅のため速やかに治安部特務魔法科本部まで集合してください」
 機械的な女性の声がブツリと切れた。
 至極どうでもよかった。行くか行かないか、ここに僕の意思も感情もない。
 僕は重い身体を起こした。


こんばんは、佐倉です。やっと連載スタートです。
何度か書いてきたこの作品ですが、苦節7年でやっと形になりつつあります。
どうぞ楽しんでいってくださると嬉しいです。
毎週水曜夜9時更新です。
拍手・感想お待ちしております。

ランキング参加中です
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へ


目次 次のページ→