蒼血のアフェクシオン Chapter00 蒼き血汐 02

 僕はシャワーを浴びて若草色の柔らかい髪を乾かした。
 「魔法使い」そう呼ばれる人間がこの世界にはいる。物理法則を超え、知覚し、動き、変化させる力を持つ者だ。そして生まれつき強い力を持つ魔法使いは髪や瞳の色が特異なものになるという。僕のように。
 下着だけを身に着けて、僕が住むアパートの一室である衣裳部屋へと向かった。
 大量のドレスワンピースがハンガーにかけられ、靴箱には数十足の靴が綺麗に陳列されていた。反対側の壁には格子状の鉄枠に滅多に使わない細見のスナイパーライフルとオートマチックピストルが。その下のガラスケースには数本のナイフと銃弾、そして合金でできた銀色の長さ10センチほどの「楔」が大量に仕舞われている。
 僕は白いストッキングを脚に通し太もものあたりでガーターベルトに挟み、ゆっくりとした動作でブラウスの丸ボタンを留める。たまたま目に入った白いワンピースを身に着け腰回りの編み上げになったリボンをきつく締め、下にパニエを履く。そして合わせるように若草色のショート丈の編み上げのブーツを選んだ。
 衣装部屋の奥にある大きな木製のドレッサーの前に座ると、薄くチークと真紅の口紅を引いた。
「あなたは誰?」
 鏡を前にして、そんな言葉を呟いた。
 そこにいるのは僕であり僕ではない。特務魔法士の羽鳥拓磨と呼ばれる「少女」が鏡の中で微笑んでいた。
 最後に太ももに革製のベルトを取り付け小型のナイフを挟み、大量の楔を収めた袋を取り付けた。

 そして、「私」は《跳》んだ。

 時刻1620、事件発生予測時刻30分前。私は国務機関ポラリス第2ビル治安部特務魔法科本部にいた。
「予知された事件は先程伝えた通りです。地点は分かりますね?」
 治安部特務魔法科現場運用主任の飯田馨がまるで何事でもないような、ゆったりとした口調で告げた。
「第3通行口西の倉庫ですよね」
「そう、そこで違法薬物が取引されるとの北辰の巫女さまが予知なされた」
 そんな小さなことまでお見通しとは、巫女さまとやらは余程暇なのね、と心の中で悪態をつく。
「羽鳥くん、君の考えは私には視えていますよ」
「すみません、主任」
 小さく舌打ちすると、馨に悪意のこもった笑顔を向けられ、背筋に冷たいものを感じた。
 主任である飯田馨は「目を合わせた相手の感情を読む魔法」を得意としている。丸い金属製のフレームの奥でしっとりと光る葡萄色の瞳が私の内部を暴こうとする。彼が言うには「目は口ほどに物を言う」そうだ。
「それで主任、私は何を?」
「今回の作戦は私も参加します。羽鳥くんは犯人全員を捕縛し容疑者の目を見てください。私は羽鳥くんの視覚を介して容疑者から情報を収集します。その後、薬物を速やかに回収してください。それと……」
 馨が口ごもる。大体こういう時は決まっている。
「巫女さまによれば容疑者は全員死亡、と予知されている」
 馨は言わない。私に「殺せ」と。
 それでも容疑者が死亡と「巫女さまが」いう限り、運命の辻褄は合わせなくてはならないのだ。きっと彼女は容疑者の死亡する時刻も、死因も、全て「覚えている」。
「それでは羽鳥くん、無事を祈ります」
 私が死ぬことはあり得ないのだけれど。



こんばんは、佐倉です。お読みいただきありがとうございます。
ゆっくりペースの更新ですがお付き合いいただけると幸いです。
ではまた来週まで。
拍手・感想ありがとうございます。

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