蒼血のアフェクシオン Chapter00 蒼き血汐 03

 私は第2ビルの屋上に出た。日が柔らかに傾いて、まだ冷たい風が強く吹き付ける。膨らんだワンピースの裾が大きく揺れ、若草色の柔らかい髪が頬を撫でた。
 コードレスのイヤホンを外すと、私は小さく息を吐いて目を閉じた。私の生まれついての高度かつ最高の知覚魔法。並外れた聴力と空間把握力。風の響く音が鮮明に脳内に地図を描き出す。
 目標地点、第3通行口西倉庫。目標までの直線距離、17.34キロメートル。障害物なし。
 今日はやはり桜の花音が煩い。
 イヤホンを耳にはめ直すと、私はビルから飛び降りた。
 私は自由落下の中で自らの位置を書き換える。私だけの理。物体の位置を知覚できる範囲で変更する魔法。目を開けると11キロメートル先の上空300メートル、その次の瞬間には西倉庫の屋上の上に降り立っていた。
 屋根に耳を当て、中の様子を窺う。人数は合計6人。ハンドガンを全員が携帯しており、うち2人はサブマシンガンを持っている。そしてアタッシュケースを持っているのが2人。様子からしてまだ取引相手は来ていないようだ。
「主任、現場に到着しました。容疑者は現在6名。うち2名がアタッシュケースを保持している模様」
 イヤホンに内蔵されているマイクボタンを押しながら伝令を送る。
「羽鳥くんお疲れさま。予知ではあと4人来るはずだからそのまま待機していてください」
「了解」
 マイクボタンを切り、周囲の物音に耳を立てる。公園で遊ぶ子供の声、夕食の準備だろうか包丁が規則的にまな板に当たる心地よい音、非日常と隣り合った日常の音。
「うっ……」
 急な吐き気がこみ上げ、締め付けられるような頭痛が襲う。脈の音が煩く、息が苦しかった。深呼吸をして一時的に聴覚をシャットアウトする。
 耳にはめたこのイヤホンは通信機能の他、羽鳥拓磨の魔力を抑えるためのリミッターでもある。耳から入る多くの情報は脳で選別され必要な情報のみを知覚することができるようになっている。人ごみの中で会話できるのもこのためだ。しかし私の聴力はその脳の機能を超えてしまった。多過ぎる情報の波に呑まれないようこのイヤホンは拓磨を守る重要な魔具であるのだ。
 一度首を回してリラックスする。そしてもう一度耳からの情報を辿る。南方からこちらに向かう車があった。全員とコンタクトを取るために彼らが到着するのを待った。
 そして16時45分、倉庫の中は合わせて10人になった。
 私は倉庫の中へ《跳》んだ。

 カタリ、とコンテナの上にヒールの降り立つ音が倉庫中に響いた。倉庫内の男たちが一斉にこちらを向く。あまりにも場違いなロリィタ姿の少女の登場に男たちは首を傾げながらも銃を構えた。
「治安部特務魔法科です。あなた方を違法薬物所持及び取引の容疑で拘束、いえ、殺害させていただきます」
 私は全員に聞こえるよう語気を強め、声を張った。
 しかし男たちは銃を下ろし、下種な笑い声を上げた。
「おいおいお嬢ちゃん、そんな物騒な冗談言うんじゃないよ。どこから入り込んだのかい? 治安部のエリート様がわざわざいらっしゃるわけがない。そんなか弱い姿をして殺すだって? そんなことをして俺たちの運命を変えるのはお嬢さんところの巫女さんが許さないんじゃないのかい」
 まるで信じない口ぶりで笑う大柄で取引先のボスであろう男の前に刹那《跳》びこみ、顎を蹴り上げる。初めて見たであろう瞬間移動に彼らは度肝を抜かれ、反射的に私を取り囲むように銃を構えた。
 私は尻餅をついて私を見上げる大柄な男に見せつけるように脚のナイフを抜くと、自らの頬を薄く切る。蒼い、闇夜より蒼い液体が頬を伝うのが窓から射す夕日に照らされた。
「言ったでしょう。私は『特務魔法科』だと。この蒼き血を見てもまだ分からないかしら。それに安心なさい。あなた方の死はちゃんと巫女さまのお導きによるものですから」
 にっこりと微笑むと、男たちは抗うように一斉に私に向かって発砲した。無駄なことなのになぁ。



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