蒼血のアフェクシオン Chapter01 魔法の学園 01

 麻薬密売事件の翌朝。史上最年少で特務魔法士になった天賦の才の持ち主、羽鳥拓磨(はとりたくま)は、同僚であり学園の2つ上の先輩である加賀睦樹(かがむつき)のベッドで一糸まとわぬ姿にイヤホンだけをしてすやすやと眠っていた。
 化粧の落ちたその顔は清らかで美しく、長い睫毛が頬に影を落としている。赤子のように丸くなってシーツを掴む様は昨晩の彼とは違い、優しげな温かみがある。
 と、いうのをまじまじと見ながら睦樹はどう起こそうか思案していた。
 別段用事があるわけでもないのでいつまででも寝かせておいていいのだが(見ているのも楽しいし)、今日は睦樹らが通う区立篠崎学園の入学式である。在校生は原則登校しないのだが、そういう日は大体、何かしらのトラブルが起きる。
「拓磨、起きろ」
 スタンダードに声をかけてみたが、身じろぎしただけで特に効果はなかった。
「たくまきゅーん、朝ですよー」
 今度は猫撫で声で優しく呼びかけてみる。少し眉間に皺を寄せたものの効果なし。拓磨のこの朝の弱さである。
 睦樹は最終手段を使うことにした。
 ベッドに丸まっている拓磨の上に覆いかぶさるとイヤホンを取り、耳元でこう囁いた。
「たくまきゅん、起きないとお目覚めのキスしちゃうよ?」
 舌先で耳介に触れると、拓磨が絶叫して飛び起きた。即座に部屋の隅っこに《跳》び、身体を抱きしめながら警戒心丸出しでこちらを睨み付ける。世界最高ランクの魔法士が怯える姿とはなかなか貴重なものだと思う。
「おはよーたくまきゅん」
「うるせー睦樹、キモイからやめてよ」
 はいはい、と笑って外したイヤホンを投げて返すと、拓磨は鼻を鳴らしてしっかりとそのリミッターをはめた。
「ひとつ言ってもいいかな?」
 睦樹がにんまりとした笑みで問う。
「何」
「拓磨、お前全裸だぞ?」
「えっ……」
 そしてまた拓磨の絶叫が部屋に響いたのである。

「拓磨ってさ、俺とセックスするくせに朝の雰囲気ないよな」
 拓磨は朝食の味噌汁を盛大に噴き出した。ダイニングテーブルの向かいに座る睦樹が笑いながらティッシュをよこす。口を拭きながら拓磨は睨み付け、続けた。
「睦樹は僕にどうして欲しいの」
「うーん、もっと可愛く恥じらって『先輩……おはようございます』と潤んだ上目づかいで――」
「訊いた僕がバカでした」
 呆れ顔で白米を口に運ぶ拓磨に、その冷たい表情もそそるね、と睦樹は笑った。
「一応、一晩を共にして身体を重ねた中なのにつれないな」
「知らないよ、そんなこと」
 一向に機嫌を直さない拓磨に睦樹は別の話題を振る。
「そういえば今日は入学式だな。拓磨もいよいよ高等部か」
「あー……」
 やっと思い出したかのように拓磨は箸を止め、間の延びた声を出した。
「まぁ俺らにはあまり関係のない話か。特魔士は高等部に上がっても『アフェクシオン』は付かないんだし」
「興味ない」
「だろうな」
 拓磨は茶碗に残った最後の一粒を口に含むと、手を合わせてご馳走様と言い食器を流し台に運んだ。睦樹も食器を重ねて拓磨に渡す。こうやって泊りに来るときは拓磨が食器洗いをするのが慣習になっていた。
「にしても、別人だよな。昨日はあんなに可愛く誘ってくれたのになー」
 ベッドに腰掛けた睦樹が揶揄すると、刹那座っている股の間に濡れた箸が1本突き刺さる。
「次は睦樹の男性器を狙う」
 背を向けたまま語気を強めて言う拓磨に、睦樹はただただ苦笑いすることしかできなかった。
そして皿洗いも終わり、食器を拭いていた頃、拓磨のイヤホンが非常コールを受信した。


こんばんは、佐倉です。お読みいただきありがとうございました。
本編スタートしました。ゆっくりペースですが、これからも水曜21時更新していきます。
読みましたのサインに是非とも拍手のほどよろしくお願いいたします。

ランキング参加中です
にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(純愛)へにほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ


更新通知をLINEで受け取る


←前のページ 目次 次のページ→