蒼血のアフェクシオン Chapter01 魔法の学園 05

 検査の列に並びながら私たちは多くはないけれど自分たちの身の上話をした。鈴花はこの魔法使いの街の生まれで両親共に魔法使い。私は魔法使いじゃない人たちの住む小さな田舎町の生まれで両親共に魔法使いではなかった。鈴花は魔法使いじゃない人の住む世界を「外」と言った。そして魔法を持たない人のことを緋族(ひぞく)と呼んだ。
「スズちゃん、なんでヒゾクって言うの?」
「血の色が緋色だからよ。それで、蒼い血の私たちは蒼血。どちらも差別用語だけどね。一般人と魔法士と呼ぶようにって先生には言われるわ」
「そうなんだ……ごめん、私全然知らなくて」
「謝ることじゃないわ。これから学んでいけばいいのでしょう? そのための学園よ」
 歯を見せて笑う小さな女の子が頼もしく思えて、私は少し安心する。私はここに来て良かったんだ。

 検査は小さな使い捨ての注射器で血液を少量採取し、それを専用の紙に垂らして判別するようだ。他の人の採血を見て分かったことだけれど、人それぞれ血液の色が違った。赤紫、藤色、青紫、濃紺、藍色、空色。鈴花が言うにはランクが高い人ほど血液の青みが強くなるらしい。
「羽鳥さまは月のない星空から掬い取った一滴の空のような深い青色をなさっているのよ」
「つまり、ものすごくランクが高い……?」
「もちろん。この学園どころかこの街で数人しか居ないランク7よ」
 胸を張って言う鈴花はどこか嬉しそうだった。詩的にうっとりと語る姿はまるで恋する乙女のようで、よっぽど好きなのだろうと感じる。ハトリサマ、また会えるかな。なんて私まで口元が緩んだ。

 いよいよ私の検査の番になった。椅子に腰かけ、白衣の女性スタッフに頭を下げる。私は指示に従って名刺サイズの審査用紙にボールペンで名前を書いた。セーラー服の袖のスナップを外して右腕を机の上の肘置きに乗せる。二の腕のあたりにゴムチューブを縛って、肘の裏をアルコールの脱脂綿で消毒をする。私が採血を怖がらなくなったのはいつからだろう。幼いころはあの太い針が身体に刺さることを考えただけで泣いて嫌がっていたのに。
 採血は小さな使い捨ての注射器で行われた。痛いことには変わりないのに慣れてしまったからか、悪いことではないと知っているからか、今では注射器に血液が溜まっていくのすら見つめることができる。
 採取した血液は瑠璃色をしていた。慣れ親しんだ私の色だ。その血液を検査用紙に垂らす。紙にじわぁりと血の染みができるのを私は眺めていた。
「あっ」
 ただの血の染みが紙の中を移動し始めた。侵食するようにゆっくりと、でも奇妙にうごめいて。数十秒が経っただろうか、私の血液は、私を「3」と評価した。

「スズちゃんはどうだった?」
 魔力審査も終わり、私たちは体育館の舞台前に並んで座っていた。私の前に座る鈴花はやはり私より一回り小柄で、後ろの私に振り返って答えた。
「私? 私は4だったわ」
 見せられた審査用紙には蒼い血のインクで「4」と書かれていた。
「うう、スズちゃんに負けた」
「ふふーん。黒蜜はランクどうなの?」
「私は3」
「あら、大して変わらないじゃない。『外』出身にしては意外とやるのね。今までに魔法を使ったことあるんじゃない?」
「ううん。たまに未来が視えるの。それだけ」
「じゃあ私たち、同じ学科かもしれないわね」
 鈴花が前に向き直ると、先程の生徒会副会長の声がした。
「これより、学科決定式を行う。新入生諸君は起立して舞台上の生徒会会長、佐々木智巳(ささきともみ)に注目しなさい」
 舞台上には長いブロンドの髪を結えた女子生徒が彫刻の施された木箱を抱えて立っていた。ブレザーとスカートのラインは青色だ。
「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。不安や期待にいっぱいのことでしょう。どうぞこの学園生活を有意義なものにしてくださいね」
 物腰柔らかな物言いで麗らかにあいさつを述べた。そして一礼すると体育館のカーテンが一斉に閉まり、辺りは薄暗くなった。何事かと目を凝らしてみると生徒会長は木箱の蓋を開け、中の「粉」を私たちに向けて手で振りかける。すると粉が床に着くとそれらは光を放ち、足元から私たちを包み込んだのだ。
「うわぁっ、何これ」
 思わず感嘆の声を上げる。光の粒が舞い、蛍のように刹那的に光っては消えた。星屑の海にいるようで口々に私たちはこの幻想的な光景を称賛する。
 制服に縫い付けられた白いラインが光の色に染まっていく。ズボンの裾、スカートのライン、袖口、ネクタイとボウタイ、セーラーの襟、そして詰襟のライン。足元から順番に色づいて、私たちは祝福された。
 生徒会長はマイクを持って悠々と話す。
「あなたたちの学科は当学園の予知部が決定しました。緑色が普通科、青色が技術科、そして赤色が卜占(ぼくせん)科です。ようこそ、区立篠崎学園へ」
 私と鈴花の制服は赤色に染まり、卜占科への入学が決まった。
 私たちの学園生活はこうして幕を開けた。


こんばんは、佐倉です。お読みいただきありがとうございました。
魔法の学園ってどんな感じかなーとイメージして、いっそのことなんでも魔法でやっちゃえ、といろいろ詰め込んでみました。
「染まる」がキーワードになっております。
読みましたのサインに是非とも拍手のほどよろしくお願いいたします。

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