140字SS 036~040

036 額縁

「プロセニアムは刮目されたか?」
 観劇後、そそくさと帰ろうとした私は男に話しかけられた。
「ちゃんと見ておかないと、結末の鍵となるものを見落とすよ」
 私は胸を絞って呟く。
「額縁で切り取られた外に大切なものがあったら?」
 オーディションに落ちた「私」の物語の鍵は、どこに落ちているのかしら。



037 否定したい

「もう、始まらない」
 そう彼女は確信めいたように言った。
 泣きじゃくる肩を抱いたのが昨日で、今日にはもう泣くことをやめてしまった。落ち着いた、というよりは「諦めた」に近いのだろう。傷付くことを恐れた虚勢にも聞こえる。
 そんな彼女に僕に言う勇気があるのだろうか。
「僕と恋を始めませんか?」



038 センチメンタルラビット

高校の担任はうさぎが好きなおじいさんだった
たまに「うさぎがこれを掘り当てた」と甲骨文字の彫られた亀の甲羅を見せたり、「そろそろうさぎが太ってきたから鍋にするか」と冗談を言っていたけど、先生も寂しかったのかな、なんて思いを馳せる
うさぎ好きは寂しがり屋という僕の勝手な思い込み



039 夏薫る色香

「……暑い」
 そうやって先輩がシャツの首もとを緩めるものだから、汗で光るなまめかしい白い肌から視線をそらせない。
「何、見てんの?」
 冷ややかなのにどこか扇情的な台詞に僕は生唾を飲んだ。
「……えっち」
 からかっているのか、それとも本気なのか。先輩に酔っているのはきっと暑さのせい。



040 読書の時間

 夏休みの図書館は人が多い。宿題におわれる学生が殆どで、閲覧用の机で参考書とにらめっこをしている。
 私の孫もこれくらいの歳だろうか。ばあちゃん本読んで、とつい最近までせがんでいたのに、今では立派な学生さんだ。孫は私そっくりの本の虫になったと娘は言っていた。
 また一緒に本を読みたいわね。






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