蒼血のアフェクシオン Chapter01 魔法の学園 07

 新しい任務、という言葉で一団は静まり、机に肘を乗せて丸眼鏡の奥の葡萄色の瞳を光らせる馨に意識を向けた。
「主に正木さんと羽鳥くんへの任務です。この女生徒、桜井希咲(さくらいきさ)の護衛です」
 馨から送られてきた視覚情報には、蒼い銀髪に翡翠色の瞳の少女が写っていた。
「護衛……ですか」
 拓磨が神妙な顔つきで繰り返す。
「単刀直入に言いますね。彼女は当代の『北辰の巫女』です」
 ガタン、と音を立てて莉那が立ち上がった。瞳が潤み、わなわな震えている。
「あたし……あたしが巫女さまの護衛……?」
 馨は震える莉那の背中を擦り、席に座らせる。
「驚かせてすまないね。本来、巫女の個人情報はポラリス上層部と一部の近親者にしか明かされないのだけれど、今回君たちに任務に就いてもらうために開示させてもらいました」
 北辰の巫女とは魔法士の世界を総べる長だ。かつて魔法使いたちは魔法をもたない人間たちに隔離され、困窮した生活を強いられていた。ある時、魔法使いたちの中から「1000年先を見通す」ことができる魔女が生まれた。彼女は迫害されていた魔法使いたちを率いて国を作り、定められた未来に従って繁栄させた。つまりは多くの魔法使いにとって彼女は絶対的な存在であり、王であり、信仰の対象であった。そして現代まで最高ランクの予知魔法士がその使命を受け継いでいる。
 感極まって莉那は涙を流した。各界の著名人や皇族の護衛の任務は数多くこなしてきたが、多くの魔法使いと同じく彼女にとっても、北辰の巫女は唯一の存在であるのだ。
 一方、拓磨は顔をひきつらせたまま、微動だにしなかった。また彼にとっても例外なく、巫女は特別な存在であるから。
「話を続けていいかな? 北辰の巫女、桜井希咲は明日から区立篠崎学園の生徒になります。クラスは高等部普通科1年Sクラス。羽鳥くん、正木さん、あなたたちのクラスメイトになります」
「でも、なんで急に」
 拓磨が震える声で訊く。
「巫女、希咲自身の思し召しです」
「つまり巫女さまの《思い出した》未来は自身がJKになることだったのか……」
 睦樹も神妙な顔つきだが、言っていることはいつもと変わらなかった。
「本来ならば卜占科が筋ですが、希咲のランクでは通常の授業はほぼ必要ありません。ですから君たちと同じくSクラスとして特別クラス扱いになります。クラスメイトとして仲良くしてあげてください。」
 馨はにっこりと微笑んだ。
「ちょっといいですか」
 拓磨や莉那と違い、平然としている睦樹は口を開いた。
「もしかして巫女さんは、主任の義理の妹さんかなんかですか?」
 その言葉に全員の視線が集まり、どうしたものかと馨がこまねいていると、その通り、と有希がそれぞれのドリンクを乗せたトレーを持ってきた。
「希咲は俺の妹だよ。一緒にここで暮らしてる。はい、お前らがバラバラの注文すっから遅くなっちまったじゃねーか」
 横柄な口調で有希がドリンクを並べる。それぞれのグラスから柔らかく甘い香りがふんわりと立ち上り、緊張していた空気が解けていく。
「みんなビックリさせて悪いな。はい、これサービス」
 そう有希がテーブルに置いたのは紅茶の葉が練り込まれたクッキーだった。ケーキじゃないけど食えよ? と莉那の頭を撫でる。
「俺の妹、希咲は少々気難しいところもあるが、世界一可愛いんだからな。手ぇ出したらその茶に毒を盛るから覚悟しておけ、クソガキ共」
 口角を上げて笑う有希に一同肝を冷やし、夫である馨は苦笑した。
「任務は明日からです。では今日のところは、お茶をゆっくりいただきましょうか」
「了解」
 拓磨たちはそれぞれ注文したドリンクに口をつける。重くかかるプレッシャーのせいか、茶葉の香りで酔ってしまいそうだった。


こんばんは、佐倉です。お読みいただきありがとうございました。
いよいよ物語が始まります。ここまでが長かった気がします。
読みましたのサインに是非とも拍手のほどよろしくお願いいたします。
次回の更新は08/19夜9時です。

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