蒼血のアフェクシオン Chapter01 魔法の学園 09

 拓磨は、立ち止った。目を射すように光輝く銀髪がさらさらと風に揺れている。少女は膝に乗せた上製本の紙面に視線を落とし、前下がりに長いセミロングの髪を耳にかける仕草をしている。制服を見る限り、拓磨と同じ、高等部の普通科の生徒だ。拓磨と違うのはスラックスではなく膝より少し短い丈の黒いプリーツスカートを履いていることだ。すらりと伸びた脚は黒いストッキングに包まれており、黒いローファーを合わせている。
 少女は、顔をあげた。
「はじめまして、羽鳥拓磨さん」
 少女の瞳は、深い翡翠の色をしていた。

 何も言葉を交わさぬまま、少女――桜井希咲と学園の廊下を歩いていた。目配せだけで付いてきてしまったが、方向と任務の話から推測するに向かうは美術準備室だろう。この学園の美術教師である馨は、何の権限があってそうしているのかは分からないが、美術準備室を治安部学園内支部にしてしまっている。本当に自由な人だと思う。
 何か言おうとは思うのだが、言葉が出ない。冷えた静かな廊下に2人の足音だけが響いている。それらの音が鮮明に僕の脳内に地形を写し出す。彼女の存在も、姿形も、心音も、全て聞こえる。「北辰の巫女」と呼ばれる彼女は実在する。その事実が僕の喉に蓋をするのだ。
「着いた」
 凛としたソプラノ声で希咲は言った。予想通り、美術準備室だった。準備室のドアの前には顔の半分が笑い、半分が泣いているお面が吊り下げられている。お面の目のところにはガラス製の馨と同じ葡萄色の瞳が付けられている。馨はこれを通して訪問者を見ているのである。カメラ付きインターホンのようなものだ。
「馨兄さん、連れてきたよ」
 躊躇いなく希咲は開ける。
「おや、君たちもサボりですか」
 一般的な教室の半分ほどのスペースしかない狭い美術準備室の中には油絵を描いている馨の他、始業式があるはずの莉那と睦樹が机の上でオセロをしていた。ちゃっかり椅子まで用意している。生徒が始業式をサボっているのは百歩譲っていいとして、教師である馨がサボるのはどうなのだろうか。
 あっ、はーさん、と振り返った莉那が言おうとしたが、希咲の存在に気付いて動きを止めた。大きく目を見開いて、酸欠の金魚のように口をパクパクさせる。準備実の壁際に積まれた資料の山が風もないのにパタパタと音を立てた。
「これで揃ったようね」
 希咲が準備室の中に足を踏み入れる。反射的に莉那が立ち上がった。
「貴女が正木莉那さんね。いつも私のために働いてくれてありがとう」
 にっこりと、鈴が鳴るように微笑む。
「とんでもございません、巫女さま」
莉那は叫ぶように言い、床に跪いた。僕はこの光景が気持ち悪くてたまらなかった。
「顔を上げて。これからクラスメイトなのよ。一緒に学園生活を過ごしましょう」
「はい……」
 莉那は震えながら、跪いたままだった。
「睦樹、久しぶりね」
 莉那の奥に腰掛けていたままの睦樹に思いもよらない言葉をかけた。莉那と僕は目を見張る。
「久しぶりです、希咲さん。お体の調子はいかがですか?」
「ええ、大事ないわ。ありがとう」
「恐悦至極にございます」
 睦樹はどこかからかうように言った。もう、と希咲が笑う。
 そして……と希咲がこちらに向き直る。
「羽鳥拓磨さん。貴方、私のこと嫌いでしょう? でもこれも使命だから、私のために尽くしなさい」
「なっ……」
 平然と述べる彼女に、僕は怒りしか感じなかった。


こんばんは、佐倉です。お読みいただきありがとうございました。
さっちゃんこと希咲がやっと登場です。この子の扱いに困る僕です。
読みましたのサインに是非とも拍手のほどよろしくお願いいたします。

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