輪郭のない

 俺は月夜に照らされている天井を見つめていた。打ちっぱなしのコンクリートの無機質な天井は、どこか俺を安心させてくれる。小奇麗に装飾された天井が俺は嫌いだった。型枠と鉄筋の跡が残る不愛想な天井。俺にはこれくらいがちょうどいい。
「んんっ……」
 隣で眠る少年、拓磨が寝苦しそうに寝返りを打つ。月明かりで蒼白く映る白磁の肌に、長い睫毛が影を落とす。素肌の肩は壊れそうなほど華奢で、だから俺は逆らうことが、見放すことができない。薄い背中が寒そうで、俺は布団をかけてやる。
 こうして一緒に眠るようになってどれほどの時が経っただろう。長すぎる時が過ぎて、それでも俺たちは一緒に居る。好きとか嫌いとか、そういう分かりやすい感情ならよかったのに、と俺は自嘲した。
 ベッドから足を下ろして窓から外を見る。街の灯りも落ち着いた真夜中、星が瞬く夜空を、眼鏡を外して眺めてみる。視力の弱い俺の目には輪郭をとらえることができない。ただ、色と、色を生み出す光を感じ取る。
 幼いころ、と言ってもまだ数年前のこと。俺が男に組み敷かれて見た景色も、輪郭のない世界だった。誰とも分からない加齢臭のするおっさんの相手を毎晩のように強いられ、俺はキスするときに邪魔だからと言って眼鏡を外して安っぽいホテルの装飾された輪郭のない天井を眺めていた。
 成長期と共に視力が弱まっていったのは、神からのギフトなのかもしれない。汚いものを見ないよう。俺の記憶に鮮明に残らぬよう。
 神は人の中にあると説かれる世界で、俺は何を考えているのだろう。ふっ、と思わず笑い声が出る。では創造主とやらはどこにいるのだろう。この世界を作り、選ばれた者に魔法を与え、運命を定めた主とは誰なのだろう。
「……睦樹?」
 振り返ると、拓磨が目をこすりながら起き上ろうとしていた。
「すまん、起こしたか?」
「別に、睦樹が泣いてるんじゃないかと思って」
 俺は声を上げて笑った。
「なんだよ、心配してやったのにウザい」
 拓磨をごめん、と抱きしめた。
 好きだとか、嫌いだとか、そんな簡単な感情じゃない。友達でも恋人でもなく、どう説明したものかと考える間柄だ。
 でも、名前や理由なんてどうだっていい。俺は拓磨と居たいから一緒に居る。それ以上の感情が必要だろうか。
「拓磨は俺のこと好き?」
 愚問だけれど問うてみる。
「んなわけねーだろ。バカ」
「だよなー」
 歯を見せて笑うと、拓磨は真っ赤になって布団をかぶって背を向けた。そして小さく、俺にしか聞こえない声で、でも嫌いじゃない、と呟いた。
「知ってる」
 俺は布団をひっぺがえして拓磨の小さな背中を抱きしめた。抵抗するつもりのない拓磨は俺に向き直って腕の中で俺に寄り添う。
 たとえ結末は悲劇でも、今は見えないふりをするよ。


こんばんは、佐倉です。お読みいただきありがとうございました。
むっつんこと加賀睦樹の誕生日になりました! イェイッ(*‘ω‘ *)
どんな話を書こうか考えた結果、むっつんには夜が似合うなーとこんな話になりました。
初の番外編……案外難しいんですね。設定としては本編開始前の夏ごろのつもりです。
どうぞ祝ってやってください。Twitterでのコメントもお待ちしております。

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