文字に溺れる

 文字は人の人生だ。

 著者たちは文章に自らの思念、記憶、理想、美学を写し出す。
 血のインクで紡がれた文字列を僕は愛してやまないのだ。


 僕は今日も図書館へと向かう。紙がふやけて柔らかくしっとりとしそうな曇天で、梅雨の煩わしさを僕は感じる。足元はぬかるんで、濡れた草木の香りが鼻を刺激した。

 近所の区立図書館は小さくて、駅前の市立図書館と比べたら床面積も蔵書量も桁違いだけど、知識の密度が違う。人がすれ違うことも憚られるような狭い通路に、低い天井いっぱいの木製の本棚。数えきれない人の生き様がそこには並び、換気が十分に行われずインクと手垢と紙の匂いがムッとするのだ。

 僕は一番奥の薄汚れたソファーに腰掛け、一冊の本を取った。一人の男が書いた数学の虚数についての本だった。僕に数学は分からない。でも知識として受け入れることはできる。未知の世界との遭遇に肌が焼けるように熱い。

 僕はその数学書をいくらか読むと、そっと膨らんだ陰部に手を伸ばした。

 知識の渦が快感となり、知識欲が性欲とつながり、言葉が、文字が、人生が僕の性的興奮を促すのだ。

「……はっ、ふぅ…っあ」

 目で文字を追い、脳を言葉で満たす。新たな知識を手に入れる快感に頭が熱くなる。もっと、もっと知りたい。ズボンをおろし、先走りで滑る亀頭をトランクス越しに撫でる。文字が欲しい。豊満な女体や淫靡な物体より概念が欲しい。

 左手で太ももに乗せた本のページをめくる。この文字を書いた人はどれだけ苦悩したのだろう。この知識を伝えるためにどれだけ言葉を選んだのだろう。何より、この知識を得たとき、どれだけ著者は興奮しただろう。

「ひぁっ、っく…んん……」

 トランクスの中で果てた僕は本を汚していないか確認すると、ハンカチで水分を拭き取った。太ももを伝う欲が僕の物語になるとしたら、それは幾何の人を興奮させるだろう。



急にうかんだイメージをそのまま文字にしたら酷く変態じみた話になりました。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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